厚生労働省が2017年に発表した統計によると、日本人の平均寿命は男性「81.09歳」、女性「89.26歳」と、過去最高を更新し続けている。「人生100年時代」と言われるなか、「QOL(生活の質)」の向上は、現代人にとってますます重要な課題となっている。中でも性生活は、人間らしい暮らしを送る上で避けて通れないテーマだろう。人は何歳までセックスできるのか――かつて「週刊文春」で話題を呼んだ本企画は、これからを生きる現代人にとっても示唆に富む。あらためてここに公開する。(前編より続く)
※「週刊文春」2012年8月30日号より転載。記事中の年齢や日付、肩書き等は掲載時のものです。
妻を女性として見られない
心因性EDの典型が、「妻だけED」である。
竹越院長が言う。
「妻を女性として見られなくなっているケースです。結婚から年月がたつと、女性も身だしなみに気を遣わなくなり、夫は妻に性的興味をもたなくなる。さらに、子づくりのプレッシャーも心理的に影響します。
晩婚化で、高齢出産のタイムリミットから妻が焦り、夫にセックスを求め、いっそう夫は拒絶するのです」
社会的内向性をはじめ、様々な性欲減退の現象を見てきたが、最も切実な問題が、この「妻だけED」だろう。不妊は社会的問題になっており、「男がセックスをイヤになる時」がなぜ訪れるのかをもう少し詳しく見てみよう。
不妊カウンセラーの河野康文氏は、北京中医学院を卒業し、現在は全国の漢方薬局に中成薬(中国の漢方製剤)を販売するイスクラ産業で中医学講師を務めている。
「不妊の相談が多いのは、30代後半から40代の夫婦です。不妊には卵子と精子の機能低下という加齢による原因もありますが、もう一つ、妊娠にブレーキをかけているものがあります。そのブレーキを解除するのがポイントです」と、河野氏は言う。
「今日は排卵日だから」がセックスを遠ざける
妊娠にストップをかけているのが、心理状態だという。
「女性は頭の中では妊娠したいと焦って、必死になります。この不安定な心理状態が、体を妊娠にふさわしくない時期と判断させてしまうのです。プレッシャーによって、女性はプロラクチン(乳汁分泌ホルモン)の血中濃度が高まる。これは排卵を抑制し、妊娠にブレーキをかけるのです」
焦ると、心と体にズレが生じ、ホルモンバランスが崩れていく。さらに、男性をセックスから遠ざける。
「そもそも性行為は、妊娠を前提にして行うものではありません。もちろん繁殖の本能はありますが、生理の1周期に、子づくりのために1回だけセックスをする夫婦が多い。これは自然な性行為ではありません。携帯メールで『今日は排卵日だから』と知らせると、夫は家に帰りたくないと思う。プレッシャーによるセックスを、夫は強制的で機械的だと判断するためです。妻は夫を見ているわけではなく、子づくりを目的にしているため、夫には面白くないと思えるのです」
河野氏が不妊カップルに強調しているのは、自然体がブレーキ解除の最初のステップだという点である。夫に子づくりを求めれば求めるほど、課題を与えられた夫は性欲が削がれ、男女とも悪循環に陥っていく。