孤児のユダヤ人少女が出生の秘密を辿る『イーダ』(13)でアカデミー賞外国語映画賞に輝き、ポーランド新世代の代表としてその名を知らしめたパヴェウ・パヴリコフスキ監督。新作『COLD WAR あの歌、2つの心』は、再び艶やかなモノクロの映像と鮮烈なドラマが観る者を酔わせる。

パヴェウ・パヴリコフスキ監督

 冷戦下の1949年、ポーランドでピアニストと歌手志望の少女が運命的な出会いを果たし、時代の波に翻弄され、東側と西側を行き来しながら、別れと再会を繰り返す。本作のカップルは、監督の両親がモデルだという。

「わたしの母はバレリーナで、17歳のときに10歳年上の父と出会い、すぐに惹かれ合ったそうです。以来ふたりは別れたり再びくっついたりしながら、ヨーロッパを転々としました。60年代になるとポーランドは共産主義が色あせ、モダンジャズなど西洋の文化が流入し、比較的自由な空気に包まれましたが、この映画はそれ以前の困難な時代に、わたし自身のルーツに対する思いを重ね合わせたものです」

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 恋人たちの劇的な道程を強調するのが、ポーランドの民族音楽と50年代のパリを席巻したジャズの対比。とくに前者は、ポーランド人の心に郷愁を呼び起こし、民族音楽のリバイバルを巻き起こした。

「わたし自身もその反響にとても驚いています。こうした民族音楽は、60年代以降は忘れられていました。それらはむしろ、共産主義の名残として人々から疎まれていた。かつて国は民族音楽をプロパガンダのためにアレンジし直し、利用していたからです。ところがこの映画をきっかけに、再び民族音楽への注目が集まるようになったのです。

 もうひとつわたしが驚いたのは、この主人公たちがかなりエキセントリックであるにも拘らず、多くの人が彼らに自分を重ね合わせたことです。故国を離れて暮らすことの不安や居心地の悪さ、といったものに共感を寄せるポーランド人が多かったのです」

 

 こうした大きな反響も手伝って、本作はアカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされるとともに、監督賞、撮影賞の候補にもなった。

 パヴリコフスキ監督を、アンジェイ・ワイダやイエジー・スコリモフスキに続く社会派監督として捉える向きもある。もっとも、監督自身はそうした風潮には一歩距離を置いているようだ。

「わたしにとって、映画はイデオロギーを表現するためのものではなく、あくまで芸術的な価値を求めるものです。本作でも、歴史的、政治的な事柄を訴えたかったわけではなく、テーマは主人公ふたりのラブストーリー。キャラクターが鮮烈であれば、物語や歴史的背景も生きてくるでしょう。政治思想には捕われない映画作りを目指したいのです」

Pawel Pawlikowski/1957年、ポーランド生まれ。『イーダ』で、2015年度アカデミー賞外国語映画賞を受賞し、さらにヨーロッパ映画賞5部門、英国アカデミー賞1部門、ゴヤ賞1部門、その他多くの賞に輝く。現在はワルシャワに住み、ワイダ・スクールで映画の監督・脚本課程の教鞭をとっている。

INFORMATION

『COLD WAR あの歌、2つの心』
6月28日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
配給:キノフィルムズ
https://coldwar-movie.jp/