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男性の体で生まれた15歳“少女”の苦しみと成長

ルーカス・ドン(映画監督)――クローズアップ

2019/07/11
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 男性の体で生まれた15歳の少女ララは、家族の支えと血の滲(にじ)むような努力でバレエ難関学校に入学する。だが理想の“少女”像を追い求めるララは、クラスメイトの嫉妬や嫌がらせにより心身ともに追い詰められていく――。

 28歳の俊英、ルーカス・ドンによる映画『Girl/ガール』がカンヌ他各地で話題を攫(さら)っている。主人公ララのモデルは、実際にベルギーでバレリーナを目指していたトランスジェンダーの少女ノラ。当時18歳のドン監督は、新聞記事で知ったノラの半生に感動し、いつか映画にしようと決意した。

ルーカス・ドン監督

「ノラのドキュメンタリーや伝記にはしたくなかった。描きたかったのは、誰もが思春期で体験する、自己イメージと現実との間で引き裂かれる苦しみと成長の物語です」

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 ノラも脚本執筆時から関わっていたが、当初は名前を表に出すことを躊躇していた。

「映画の完成と共に、彼女も自分のアイデンティティと折り合いをつけていったようです。自分の物語を伝えることに誇りを持ち、もう陰にいるのはやめようと決めたんです」

 絶賛の一方で、ララを演じた新人ビクトール・ポルスター自身がトランスジェンダーではないことに当事者コミュニティからの批判も起きた。“性別を超越した美しさ”と話題のビクトールは、アントワープ・ロイヤル・バレエ・スクールに通う現役のトップダンサー。1年半、ララ役が決まらなかったとき、ダンサー役の集団オーディションに訪れ、監督の目にとまった。

「ビクトールが部屋に入ってきた瞬間、ノラの磁力と同じものを感じました。当事者の方々の声を尊重し、キャスティングに反映させていくべきだという声には心から同意します。ただし、彼のアイデンティティだけを取り上げて批判することには反対です。彼は強い尊敬の念を持ってララを演じてくれたし、感情の微細な変化を表情で伝えられる稀有な才能を持っていました。何より彼は圧倒的なダンス能力を持っていた。トウシューズの技術を習得するには数年はかかると言われるのに、彼は猛特訓の末、たった3カ月でそれを成し遂げた。ララが劇中で体験したことを、ビクトールもまた経験したんです」

 バレエの振付を担当したのは、天才振付師シディ・ラルビ・シェルカウイ。だがカメラはダンス全体を捉えるのではなく、しばしばララの顔や手足を大きく映し出す。

「ダンスがララの身体にどう影響を与えるのかを撮りたかった。撮影では、役者と一緒に、カメラワークも指示してもらいました。カメラが常にララと一緒にいられるように」

 ダンスのようなカメラの動きにより、少女の心の揺れが、身体の痛みと共に記録された。

Lukas Dhont/1991年ベルギー生まれ。2014年、『L'INFINI』がアカデミー賞短編部門・ノミネート選考対象作品に。『Girl/ガール』は長編デビュー作ながら、カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)など3冠に輝き、アカデミー賞外国語映画賞ベルギー代表にも選出された。

INFORMATION

『Girl/ガール』
7月5日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
http://girl-movie.com/

男性の体で生まれた15歳“少女”の苦しみと成長

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