人口減少や核家族化などによって、地方では寺院の維持が難しくなっている。全国に7万7000カ寺ある寺院が、2040年には5000カ寺に減るとの予測も。住職のいない寺は、推定1万7000カ寺にのぼるらしい。

 鵜飼秀徳さんはこうした現状を丹念にルポ。2015年、『寺院消滅 失われる「地方」と「宗教」』(日経BP社)を出版した。

鵜飼秀徳さん

「仏教界が正面から向き合ってこなかった問題だけに、当初は反発もありました。『どうすれば消滅を止められますか』とよく聞かれますが、社会構造の問題なので、避けようがないんです」

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 同書は反響を呼び、経済誌の記者だった鵜飼さん自身にも、大きな転機が訪れる。

「実家は京都市・嵯峨にある浄土宗の寺院ですが、30代後半まで、お寺の世界とは無縁の生活を送っていました。東京で念願のマスコミに就職し、結婚して家も買った。大学時代に僧籍取得のための修行はしたものの、『誰か京都の寺を継いでくれないかな』なんて思っていたほど。『寺院消滅』の取材を始めたときも、寺院の衰退そのものより、それを通じて過疎化や地方の抱える問題を描くことに興味があったんです。ところが出版を機に京都に戻る方向に物事が動いた。今思えば必然でしたね」

 16年には、都会における葬送の変化を追った『無葬社会』(日経BP社)を上梓。仏教界とのつながりも深まり、同年末、会社を辞めることを決断した。

「評価を得るために争うなど、組織内の人間関係に疲れていた。背中を押したのは『そろそろ京都に戻らないの?』という妻のひと言です。それから準備をして、1年後に退職。会社員時代より年収は減りましたが、精神的な豊かさが手に入りました」