中終盤から勝ち切る力が求められるようになってきた
――将棋ソフトについて、木村九段はどのくらい使われているのでしょうか。
木村 ちょっとだけ。使いこなせないんで(笑)。気になる局面の評価値を確認するくらいでしょうか。先ほども言いましたが、自分で考えるということが必要です。前例のない局面を一から考えるというのはきついですが、そういったことに取り組むようになりました。
――将棋ソフトがプロ棋界にも影響を与える現在と、その前とを比較してみてはいかがですか。
木村 けっこう難しいですね。ソフトが使われ始めた当初は、そこに由来する序盤の工夫で一方的に差がつくということが結構ありました。そのこともあって序盤はやる気があればレベルが高くなり、トップも油断はできないという状況です。
しかし最近はまた変わって、ごちゃごちゃした中終盤から勝ち切る力が求められるようになってきました。その結果として、一時期は誰が勝ってもおかしくない戦国時代ともいわれましたが、最近は昔から評価されていた従来の実力者が勝つ構図に戻っている気がします。その代表的な棋士が渡辺さん(明二冠)でしょうか。一時は不調を言われ、自身も戸惑いを見せていたように思いますが、今はすごい勢いで勝っています。
――今回の王位戦七番勝負では木村九段の年齢も注目されます。46歳での初タイトルとなれば、有吉道夫九段が初めてタイトルを奪取した時の37歳を超える最年長記録です。
木村 有吉先生の年齢を超える、ということについては3年前の挑戦でも5年前の挑戦も言われていたので、そうなんだな、というくらいです。年齢は気にしても仕方がないので、あまりごちゃごちゃ考えないようにしています。
ピークは20代後半から30代前半だったかなと
――そもそも、プロ棋士は年齢を重ねると弱くなるのでしょうか。
木村 総合的に考えればそうでしょうね。盤上の技術が年齢を経るごとに加算されても、記憶力や根気という部分ではマイナスが生じます。自分自身のことを言えば、ピークは20代後半から30代前半だったかなと。若いころの方が勢いもあり、先を読めていました。
昔、中原先生(誠十六世名人)が「40代になると勝ちの局面で読む量が減った」ということをおっしゃっていました。若いころなら5回考えられた局面が、40を過ぎると2~3回に減る。その結果としてミスが生じて逆転負けが多くなったということなんですね。その話を聞いた当時は「そんなものか」と思いましたが、自分が40を過ぎてみると、もっともだと思います。その原因は根気がなくなったのか、あるいは体力的なものなのか……。
――それをカバーするため、ランニングなどで体力作りをされていると聞きました。
木村 ランニングは元々の習慣ですね。さすがに毎日走るのは無理になりましたが。自分が変わったとしたら、さっきも言いましたように技術面の取り組みとしか思えません。他の棋士と行う研究会は量が変わっていないので、一人の時にどうやるかということです。