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特集観る将棋、読む将棋

最年長“初タイトル”狙う木村一基九段  『千駄ヶ谷の受け師』の忘れられない涙

2019/07/02

 あと一歩で頂点に届かないけれど、それがゆえに絶大な人気がある。どこの世界でもそんな人がいる。

 今年惜しまれつつも引退した元横綱稀勢の里がその代表と言えよう。

 将棋の世界でいえば木村一基九段だ。A級在籍通算5期、タイトル挑戦6回。一流棋士と評価されるにふさわしい実績だ。

 2009年の第50期王位戦七番勝負。将棋ファンでこのシリーズを知らない人はいないであろう。開幕3連勝で初タイトルをほぼ手中にしていた木村九段にとって、そしてそのファンにとって、二度と思い出したくないシリーズだ。

 そして6回目のタイトル挑戦となった2016年の第57期王位戦七番勝負。羽生善治王位(当時)を3勝2敗と追い詰めて、今度こそ初戴冠なるか、ファンの期待は大きく膨らんだ。しかしそこから2連敗。あと1勝が遠くまたしても頂点に届かなかった。

木村一基九段 ©時事通信社

棋士生活初の負け越しから「V字回復」

 木村九段は羽生王位に敗れたあと、順位戦B級1組で痛恨の連敗を喫してA級昇級を逃し、勢いを失ってしまう。

 2017年度(将棋界の年度は4月~翌3月末)は棋士生活で初めての負け越し。順位戦でも出だし4連敗で降級の危機に陥った。

 2018年度に入っても調子は上がらず、2018年4月は3戦全敗。前年度から続く連敗は5を数え、窮地に追い込まれていた。40代も半ばとなり、後輩たちが次々に初タイトルを獲得した。向上心を失い、将棋から心が離れても致し方ない時期であった。

 しかし木村九段は違った。順位戦を逆転でA級に返り咲き、王位戦でも挑戦を決めて文字通りのV字回復を遂げた。

 王位戦七番勝負では、現在最強を誇る豊島将之王位(名人・棋聖)と対峙する。初タイトルへ、最後に最大の難敵が待ちかまえる。

今年5月、竜王戦1組出場者決定戦では羽生善治九段の1434勝を阻んだ ©文藝春秋

 筆者が木村九段と出会ったのは、師匠の加瀬純一七段の将棋教室に通い始めた25年前だ。プロ入り直前の木村三段(当時)が指導を担当しており、何十局と将棋を教わった。

 プロを目指し始めたばかりの筆者にとって、木村三段(当時)に将棋を教わるのが一番の勉強法だった。