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「応援はありがたいよね」大きくなるファンの声援

 しかし一つ違うことがある。ファンを大切にしてきた木村九段には、当時より一喜一憂するファンの数が遥かに多くなっている。

「向上心を失い、将棋から心が離れ」ないのは、ファンの声援が木村九段を後押しするからだ。その声援は大きくなる一方で、「応援はありがたいよね」とは木村九段からよく聞くセリフだ。 

 自分のためだけに戦い続けるのは難しい。ファンの期待に応えたい、その思いが棋士を強くさせるのだ。筆者も年齢を重ねる中で、ファンの声援のありがたさを噛み締めている。

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 昨年5月に久しぶりの対羽生九段戦で勝利したことがキッカケとなり、再び上昇気流に乗った。そして2019年に入り、3月にA級返り咲きを決めた。そして5月には竜王戦の決勝トーナメント入りをかけて、6月には王位への挑戦をかけて、いずれも羽生九段と戦い勝利した。

 タイトル通算100期を期待される羽生九段への応援は多かったが、悲願の初戴冠を狙う木村九段への応援も同じくらい多かった。それが後押しした結果だったと思う。

5月に愛知県瀬戸市で藤井聡太七段と公開対局を行った木村一基九段(左端) ©共同通信社

木村九段初タイトルへ“2つのポイント”

 木村九段が初戴冠を目指すには2つのポイントがあるとみる。

 1つは「タイトル戦への適応」だ。豊島王位はタイトル戦が続いており、戦い方は確立されている。対する木村九段は3年ぶりの舞台だ。タイトル戦の雰囲気に飲まれて実力を発揮出来ない、という事態は避けたい。

 もう1つは「序盤戦」だ。木村九段は将棋AIを使わず自分のスタイルを重視する。対する豊島王位は将棋AIを使っての深い研究に定評がある。序盤は作戦選択含め、駆け引きが多くなりそうだ。ここで主導権を握れるかどうかは勝負へ影響する。

 最初の2戦でシリーズの流れが決まるだろう。最近の七番勝負は4-0が続いているが、どれも第1局がシリーズの流れを決定づけた。明日から始まる第1局にはおおいに注目いただきたい。

 最近のプロの将棋は玉も囲わず早々に戦いが始まるケースが目立つ。必然的に薄い玉形で戦うことになり、受けの力が必要とされる。

 そういう戦いは「千駄ヶ谷の受け師」の土俵といえよう。

 木村九段に時代の流れはきている。

 元横綱稀勢の里は、幾度となく優勝を争い、30歳を越えて相撲取りとしてはベテランの域に入ってから悲願の初優勝を成し遂げ、横綱に登りつめた。最後の最後、優勝を後押ししたのはファンの声援だった。

 棋士としてベテランの域に入った木村九段にもファンの声援が後押ししている。今度こそ、その思いは届くのか。木村九段の暑い夏が始まる。

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