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「あと1つになると、封じ手の夜に眠れなくなる」木村一基九段が語ったタイトル戦の重み

46歳の挑戦者・木村一基九段インタビュー #2

2019/07/03

 現在、将棋界には8つのタイトル戦がある。タイトル保持者への挑戦権を勝ち取って番勝負(タイトル戦)に出場すること自体が棋士にとって大きな栄誉だが、タイトルホルダーは歴史にその名を刻む特別な存在となる。

 2016年の王位戦で木村一基九段は羽生善治王位(当時)へ挑戦し、3勝2敗とあと一歩まで迫ったが、そこから2連敗して奪取ならず。2009年の棋聖戦、王位戦でも、タイトル獲得まで「あと1つ」の状況になったが、いずれもフルセットの末に敗れている。木村にとって、最後の1勝があまりに高い壁となって立ちはだかってきた。

 自身7度目となるタイトル戦について、その思いを語ってもらった。

 

タイトル戦に出るのと、周りで見るのとは違う

――改めて、木村九段にとってタイトル戦とはどのようなものでしょうか。2005年にタイトル戦初挑戦を果たした竜王戦七番勝負の時と比較して、変わったことなどはありますか。

木村 初めての竜王戦については、タイトル戦に出るのと、周りで見るのとは違うということがよくわかりました。対局前日に寝なければいけませんが、コンディション作りができなくて眠れず、愚かだったなあという反省点があります。特に2日制のタイトル戦は封じ手が終わった1日目の夜に寝ることができませんでした。

――封じ手の夜はどのようなものでしょうか。

木村 将棋について考えるときりがないので寝るほうが良いんですが、考えることで先行きのメドが立つこともあります。ケースバイケースですね。ただ将棋を考えると止まらなくなるので、どこかでバッサリ切ることができるかどうか。1日目の夜に寝ておかないと、2日目の勝負所に反動がきます。それでうっかりミスが出やすくなります。わかってはいても思うようにはいかず、気持ちが高ぶって色々なことを考えてしまうんです。3年前に挑戦した時も5局目まではよく眠れてコンディションは完璧だと思っていましたが、タイトルまであと1つになるとダメでした。

6月6日に行われた王位戦挑戦者決定戦の対羽生戦 ©相崎修司

3年前の挑戦もこれが最後のチャンスと思っていました

――あと1勝ならば、技術的な差がそれほどあるとは思えないというのが素人的な見方になりますが……。

木村 最初の竜王戦、そして2008年に挑戦した王座戦はいずれもストレート敗戦です。当時から力が不足しているとは思っていました。そのあとに出場したタイトル戦では、勝つことができて希望が見えてきました。だが最後の一局に勝てず、自分には縁がないものと折り合いをつけるしかありませんでした。

 5年前の自分と比べて劣化しているとは思いませんが、タイトルのチャンスはなかなかありません。5年前の挑戦も、3年前の挑戦もこれが最後のチャンスと思っていました。特に3年前はあと1勝に迫ってから連敗し、やっぱり縁がないのかなと。そうは思いたくないですが、タイトルに無縁だと、これからどうやって棋士としてやっていくのかということを考えます。ただ振り返ってみますと、タイトル戦の結果に関しては相手が強かったとしか言いようがありません。