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「あと1つになると、封じ手の夜に眠れなくなる」木村一基九段が語ったタイトル戦の重み

「あと1つになると、封じ手の夜に眠れなくなる」木村一基九段が語ったタイトル戦の重み

46歳の挑戦者・木村一基九段インタビュー #2

2019/07/03
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受け将棋をやると翌日に顎が痛くなる

――また木村九段の異名には、「千駄ヶ谷の受け師」というものもあります。受けとなれば最終盤のきわどい局面での綱渡りが続くイメージがありますが、そこで踏ん張れるのはメンタル的な影響も大きいのでしょうか。

木村 やはり大きいんでしょうかね。終盤のごちゃついた局面で崩れないことに、最近の調子の良さを感じます。調子が悪い時は混戦でポキっと折れてしまいます。そういう負け方が少ないといいんですが、楽ではありません。受け将棋は基本、我慢ですから。ただ若い時と比べると我慢していないのかもしれません。

「受けの棋風」が持ち味 ©相崎修司

――なぜですか。

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木村 受けているときは歯を食いしばっているから、次の日は顎が痛いんですよ。そのようなことを昔、話したことがあるんですが、そのことをファンから聞かれて、最近は痛くないから前ほど我慢していないことに気がつきました。そういうことに気づかせてくれるのも、昔から見てくれたファンの方々のおかげですね。

――受け将棋というと、なんといっても大山十五世名人の名前が浮かびます。

木村 大名人ですからね。とてもじゃないけどレベルが高すぎます。大山先生の将棋は徹底して受けるということが多かったんじゃないかと思います。相手の心を折るような手もあったのではという印象を持ちます。ただ現在は攻めの技術が向上しているので、受けて勝つのが難しくなっています。自分も攻めのことを意識して指しています。

 

過去にタイトル戦で戦ってきた相手とはタイプが違う

――改めて、豊島王位についての印象をお願いします。

木村 昨年に初タイトルの棋聖を取ってから、ポポポンと一気に三冠王。今の充実ぶりは素晴らしいですね。私が過去にタイトル戦で戦ってきた相手とはタイプが違うと思います。研究に自信があるのでしょうか、序盤はサクサク進めています。その辺りに惑わされないようにしなくてはいけません。序盤の知識が劣らなければ持ち時間に差がついたり戸惑ったりはしないだろうがとは思いますが、こればかりは指してみないとわかりません。準備はしているものの、不安と半々です。

 

――その豊島さんと渡辺二冠が対局した棋聖戦五番勝負第2局では立会人を務められましたが、大盤解説会で豊島さんについて語られる機会もありました。

木村 本来の解説役ではないので、多くは話しませんでしたが、私が感じている以上に、ファンの方々が次の豊島戦を意識されています。ただ他棋戦の話なので、自分の挑戦についてはそれほど話さないようにしました。

 この将棋は珍しく豊島さんの作戦がうまくいかなかったのですが、そのようなことを話しましたね。豊島さんにとっては珍しい黒星ですが、それが続くほど甘くないので「なんだよ、ここで出ちゃったのかな、俺の時に頼みますよ」と心の中では思っていました。本人には言えないですけど(笑)。

――最後にファンの方々へ向けて一言お願いします。

木村 最近は調子の悪いこともありましたが、自分にできることをやってきた結果、挑戦権を得ることができました。一局一局を大事に一生懸命やるだけです。

写真=山元茂樹/文藝春秋

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