元外務省主任分析官の佐藤優氏と思想史研究者の片山杜秀氏は立て続けに『平成史』『現代に生きるファシズム』という対談書籍を出版した。

 その“知の巨人”2人が、「なぜトランプは金正恩と板門店で電撃会談を行ったのか」「安倍首相のイラン訪問は成功したのか」、など最新の世界情勢を読み解き、日本の生き残る道を語り合う。(全2回の1回目/#2へ続く

元外務省主任分析官の佐藤優氏(左)と思想史研究者の片山杜秀氏 ©太田真三

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ハメネイ師と会っただけで「成功」なんです

片山 米中貿易戦争が世界経済の展望を暗くしていましたが、トランプ大統領は、習近平国家主席とのG20期間中の会談で「一時休戦」を事実上表明しました。その翌日には、南北の非武装地帯(DMZ)にある板門店を訪れ、金正恩委員長と電撃会談を果たしました。国際情勢は、目まぐるしく動いています。いまや米国に追従することが「正解」とは限らない。これまでとは違う発想で、外交に取り組まなければなりません。そうした意味で、安倍首相のイラン訪問は、緊迫化する米国イランの間を取り持つ独自外交として、もっと検証されるべきだと思っています。佐藤さんはどう見ていましたか。

佐藤 今回、安倍首相は6月12、13日とテヘランを訪問し、ロウハニ大統領らと会談しました。その期間中に、日本の海運会社が運航するタンカーが何者かに攻撃された。タンカー攻撃の話は後回しにするとして、重要なのはハメネイ師と会ったということです。これは会っただけで成功なんです。

6月13日にイランの最高指導者ハメネイ師と会談した安倍首相 ©AFLO

片山 イランは神権政治の国です。大統領は、日本と同じレベルの民主的な選挙で選びますが、大統領は軍事でも、立法でも、司法でも、行政でも最終的な権限を持っていません。すべてを司るのがハメネイ師だということですね。

佐藤 その通りです。ハメネイ師が出てきたことは、アメリカからしてもびっくりだった。ハメネイ師が何を考えているかを、彼らは一番知りたいんです。それで、結果はどうだったのか。イラン公式の宣伝サイト「Pars Today」が安倍―ハメネイ会談の数時間後に伝えた内容によれば、ハメネイ師は、トランプは交渉に値しない、メッセージは返すつもりはない、という厳しい姿勢だったそうです。

 一方で、同サイトは、ハメネイ師は、オバマも含めてアメリカの指導者で信頼できる人間などほとんどいないとも語ったと報じています。

 オバマも信用できない。それと同じレベルでトランプも信用できない。ということは、オバマとトランプは同じレベルです。オバマと取引ができたのなら、トランプとも取引できるという意味になるんです。