なぜトランプは「日米安保を見直したい」と言ったのか
片山 少し俯瞰的な話をします。日本はどうしても、中国、朝鮮半島、そこにアメリカといった枠組みで物事を考えていますよね。中国は地理的にも、文化的にも、もともとの隣国です。朝鮮半島もそう。でも、アメリカはそうではない。
たしかに、アメリカが日露戦争のときに金銭的に日本を助けてくれたですとか、日中戦争のときには、アメリカが蒋介石率いる国民党に肩入れしたですとか、アジアに関与したこともあります。でも、アメリカにとっては本筋にまではなかなかなってこない。本筋にするなら、たとえば第二次世界大戦後の国民党と共産党の内戦のときにもっとやらねばならない。しかしおざなりでした。そのあと朝鮮とベトナムの戦争がありますが、どちらかというとディフェンシヴで、最後は腰が引けますよね。
もちろん冷戦期は、共産主義への防波堤、つまりディフェンスの点で日本はアメリカにとって間違いなく重要だったと思いますが、そうした時代が既に終わったことは、昨今のトランプの「日米安保を見直したい」発言からもお分かりでしょう。
佐藤 やはりアメリカは、ヨーロッパから派生した国ですから、へその緒はヨーロッパについていると思います。そのヨーロッパにとって死活的に重要なのが中東です。中東が荒れれば、難民たちは海を渡って、対岸のヨーロッパに押し寄せます。地理的にみれば、中国ですら、裏庭でしかない。
歴史的にみても、アメリカは中東で忙しくなると、中国や朝鮮半島問題が手抜きになる傾向にあります。その結果、金正恩と習近平が喜ぶような事態が訪れてしまいます。まさに、今回のトランプと金正恩会談がそう。しばらく中東に目を奪われていた結果としての米朝、米中の緊張緩和といったところでしょうか。
片山 なるほど。そうした中東を巡る欧米の空気感が分からないまま、安倍首相はイランに行ってしまったような印象があります。さきほど、今回の安倍首相のイラン訪問は、大変な成果というお話を佐藤さんが仰っていましたけど、その実感が国民にもなかなか伝わっていないし、メディアにしてもどう報じてよいものか分かっていません。
佐藤 そうです。だから雰囲気で言いますと、パチンコ好きで、せいぜい競馬までしか行ったことない人が、「はい。半方(はんかた)ねえか、半方ねえか」「丁半(ちょうはん)そろいやした」といった言葉が飛び交う、激しい鉄火場に行っちゃったようなイメージです。こんな怖い場所とは知らなかったと、首相含めて全員が思っているのではないでしょうか。
片山 鉄火場に入っていくのは簡単だけど、抜けるのは大変ですからね。なんだか不安になってきました(笑)。
※本対談は、『平成史』『現代に生きるファシズム』の刊行イベント(紀伊國屋ホール)で行われた対談をもとに、再構成しています。