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「タンカー攻撃、真犯人はイランでもアメリカでもない!?」元外務省・佐藤優の推理とは

佐藤優×片山杜秀“知の巨人”対談

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タンカー攻撃の犯人「4つの可能性」

片山 ものすごく前向きのメッセージということですね。ハメネイ師は核を持つ気はないというメッセージを発していたとも、報じられています。それでは、そこまでをふまえた上で、タンカー攻撃事件に移りましょう。安倍首相がハメネイ師と会った13日に、ペルシャ湾のホルムズ海峡付近で、日本が運営するタンカーを含む2隻のタンカーが、何者かによって攻撃されました。果たして、誰が何のためにやったのか。

佐藤 起きている事態はとても深刻なものです。ホルムズ海峡の国際航路帯は、イランの領海内には設けられていません。アラブ首長国連邦とオマーンの領海にあります。オマーンは、日本ではよく知られていない国ですがもともとは船乗り、シンドバッドの国です。その海洋国オマーンの領海で、今回の事件は起きました。

 領海内で、軍事活動を行うということは、宣戦布告を意味します。もしどこかの国がやったとしたら、事実上、戦争に限りなく近いことを意味します。ここでもし、イランが戦争する意思があるとアメリカが見做していたら、もうトランプは攻撃していたはずです。そうなっていないのはなぜか。ハメネイ師が安倍首相に発したメッセージが歯止めになったからでしょう。

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片山 どうもイランがやろうとしていると思えない、とトランプは思ったということですね。安倍―ハメネイ会談は、とても重要な意味を持っていたわけですね。

 

佐藤 その通りです。今回の「犯人」には4つの可能性があります。1つ目はイランのハメネイ師が命じたというもの。2つ目は、ハメネイ師は関知していないけど、ハメネイ師配下の軍隊=イスラム革命防衛隊が暴発したというもの。3つ目は、アメリカ謀略説です。それぞれの立場から、もっともらしく語られていますが、どれも露見した際のリスクが高すぎます。

 そうなると蓋然性が高いのが4つ目。内戦下のイエメンのフーシ派がやったというシナリオです。フーシ派とは、イランが支援している武装集団です。ただし、イランの統制下にはありません。フーシ派は、イエメンの内戦でサウジアラビアが応援しているスンナ派系の勢力と戦っています。サウジアラビアは親米国であり、かつイランのライバルです。イランとしては「敵の敵」だからフーシ派を支援しているに過ぎません。

 フーシ派としてはもし、アメリカとイランが和平に傾けば、イランから支援が得られなくなるのではないか、という恐れがあります。だから、挑発活動をする理由があります。