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「アツト、やめんなよ!」再び内田に戦うことを決意させた一言

 5月31日、ロシア行きのメンバー23人が発表されると、それぞれの地元や身の回りで祝賀会や報告会などが行われた。内田の代理人である秋山祐輔も契約する大迫勇也と乾貴士のメンバー入りを祝うささやかな会を催した。内田もその会で2人を祝福した。

「サコ、タカシおめでとう」秋山は、短い一言に思いを込めた。

「アツト、やめんなよ!」

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 ロシアを本気で目指していた分だけ、反動はあるだろう。だが、歩みを止めるにはまだ早い。まだまだ現役選手として戦ってもらわなくてはならない。その思いだけは口にして言う必要があると秋山は思っていた。

「アッキーはいいとこ突いてきたよね。やめようとは全く思ってないけど、やめてもいいよね、的な状況だったからさ」

 内田は治療とリハビリの日々を再開させた。

一言に治療とリハビリを再開させ、再び戦い始めた内田篤人 ©文藝春秋

「ロシアでこの戦い方が出来れば……」でも必要だった”これまで”

 W杯は日本で、テレビで観戦した。最後まで粘り、走り、がんばるかつての仲間たちの姿を見て、言いたい事もふつふつと湧き出てきた。

「どうして、14年の時にこういう戦い方ができなかったんだろう。みんなこれをやるべきは14年だったのに。相手もあの時のほうが格段にラクだったのに。勝つチャンスは当時のほうがもっともっとあったはずなのに。なんであの時がんばってくれなかったんだよって思いながら見てた」

 ただ、内田だって、14年当時に仲間たちにそんな思いを伝えられたわけではない。ブラジルから4年の月日が経ち、互いに成熟することでようやくロシアでのがんばりに繫がるわけだ。代表主力選手たちのキャリアは後半に差し掛かっているかもしれない。衰える部分もあれば、経験を積み重ねることで成長していく面もある。全ての要素が同じスピードで成長したり衰えたりするわけではない。ロシアW杯で見せた精神性が、身体的にはもっと良い状態だったかもしれない14年にあればと思うこと自体は自然だが、18年の戦いぶりに至るまでには時間が必要だったのだ。

あの悔しいW杯から怪我に悩まされながらも成長してきた ©文藝春秋

「でも、これがもう少し経ってさ、引退する頃に振り返ってみた時に、あれだけ少ししか試合に出てないのによくW杯出たいとか言って、よく代表チームに文句言いながら試合見てたなって思うんだろうね」

 今はそんな風に思っている。

内田篤人 悲痛と希望の3144日

了戒 美子

講談社

2019年3月27日 発売