筆者のSNS上で、映画「新聞記者」が話題になっていた。色々な意味で。

 Twitterを検索してみると、やはり2つの世界が広がっていた。現政権と絡めて権力とメディアの葛藤を描いた作品として称賛する人、物語の根幹を成す設定に否定的な意見を出す人などなど、意見は真っ二つに割れていた。

 これを見て筆者は「あ、これ絶対面白いヤツだ」と勝手に決めつけた。映画そのものより現象が。こうなったら、映画も見てみるべきだろう。筆者は映画館に向かった。これはその一部始終、つまり「新聞記者」の映画評になる。

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 なお、本稿においては、その性質上映画「新聞記者」の核心部分を含むネタバレが多数登場する。あらかじめその点をご承知の上、この先を読むかどうかご判断頂きたい。

映画「新聞記者」公式サイトより

物語が始まる前から驚かされる

 筆者は特に映画の前情報も調べず、映画館に向かった。上映されていたのは比較的小さいスクリーンだったものの、座席の半数は中高年の男女で埋まっていて、平日上映の、それも社会派の映画としてはかなり健闘している部類に入ると思う。予告の長さにブツブツ文句を言っている隣の老齢男性を気にしつつ、映画が始まった。

 本編が始まる直前でいきなり驚かされたことがある。映画の配給としてイオンエンターテイメントがクレジットされたのだ。イオングループと言えば、言わずと知れた旧民主党・民進党代表で、現在は立憲民主党会派の岡田克也氏の実家の一族企業である。そういう背景で政治や報道題材の映画を出されてもな……という気分は拭えない。

 映画の内容と資金・配給は関係ないという反論もあるだろうが、仮に麻生グループが関与する政治エンターテイメント映画があったとしたら、自分だったら眉に唾をつけて観るし、皆さんはどうだろうか? それと同じことだ。そういう訳で身構えて観ることにした。

主人公の新聞記者を演じたシム・ウンギョン ©getty

反政権的な人物にスキャンダルをでっち上げる

 主人公の吉岡は、東都新聞の記者。優秀な新聞記者だった父親は、政治スキャンダルの誤報をきっかけに自殺した経緯を持つ。ある日、社内に送られてきた大学新設計画に関するFAXをきっかけに、この大学新設計画の背景を追っている。

 もうひとりの主人公である杉原は、外務省から内閣官房の内閣情報調査室(内調)に出向している官僚だ。杉原の内調での主な仕事は、反政権的なメディアに対する批判・揶揄をTwitterに投稿したり、反政権的な人物をこじつけでスキャンダルをでっち上げたりして信用を失墜させる仕事をしているが、その仕事内容には疑問を抱いている。

 杉原の元上司である神崎の自殺をきっかけにして2人は出会い、大学新設計画を巡る政府の真の目的を探ることになる。