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賛否両論の映画「新聞記者」が悪い意味で虚実ないまぜだった件

都合の良い実在・非実在の使い分けに呆れた

2019/07/21
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 物語の大筋は上述の通りで、「総理のお友達」が関与している大学新設計画は、明らかに加計学園の獣医学部新設問題を下敷きにしている。この他にも、文部科学省の一連のスキャンダルや、ジャーナリスト・伊藤詩織氏への暴行事件といった、実際に起きたものを連想させるような事件が多数登場し、その背後には政権が関わっていることが示唆されている。

 物語が始まってから最初に驚いたのは、劇中のテレビ番組に「新聞記者」原案の東京新聞記者・望月衣塑子氏と前川喜平元文部科学事務次官が出演していたことだ。前述したように、劇中に実際に起きたのを想起させる事件が多数登場しているが、それらは実際の事件そのものではない。だが、ここに来て実在の人物に解説役をやらせるのは予想外だった。創作と現実をシャッフルする意図とはなんだろうか? ここで抱いた違和感は終始つきまとうことになるが、それについては後に譲る。

東京新聞記者の望月衣塑子氏 ©文藝春秋

内調がネット工作の実行主体になりえるか

 ネット上で批判が大きい内調のネット工作描写だが、筆者は政府や政治組織によるネット工作自体はおかしな話ではないと思っている。しかし、内調がその実行主体になりえるかについてはかなり疑わしい。内調は各省庁からの出向者が大半を占める組織で、やがて外部に戻ることが確定しているスタッフにこんな工作をさせるだろうか。そもそも、世論工作について、外部から出向してきた官僚達は素人だ。

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 世界各国で明らかになっている世論工作についても、その実行主体は民間企業によるもので、企業が絡むことで工作がバレても真のクライアントは誰かを隠匿することもできる。劇中の討論番組で前川喜平元次官が「内調は何をやっているのか分からない」という趣旨のことを語っている。つまり、内調のネット工作の部分は制作者の完全な想像によるもので、このあたりの描写に想像力の限界が見え隠れしている。

大学新設は生物兵器のため?

 物語の核心部分である大学新設問題は、結論から言うと、政府が生物兵器開発に転用しうる研究施設として構想していたことが終盤明らかにされる。この点について、昔からある都市伝説レベルのネタを話の根幹に持っていくのはどうなのかという批判を多く見かけた。「新聞記者」劇中では実際の政治事件によく似た事件が登場すると言っても、この根幹の設定だけは加計学園問題のそれに明らかに盛ったものだ。

前川喜平元文部科学事務次官 ©文藝春秋

 ネット上では加計学園絡みの疑惑について、モリカケと揶揄してマスコミのでっち上げのように言う論調が一部に見られるが、筆者は政府が言っている部分だけでも相当ヤバイと認識している。

 例えば、自民党が政権に返り咲いた後、民主党時代に首相官邸への入館パスが乱発されるなど、素性の怪しい人間まで出入りできるようになっていたことを飯島勲内閣官房参与がテレビで明らかにして民主党批判をしていたものだが、加計問題で官邸への出入りが問われると、政府は官邸への入館記録は存在しないと調査を拒んでいる。これが事実なら、入館者の素性を後年に検証することが不能になるレベルまで官邸のセキュリティが落ちたということで、あれほど民主党時代の官邸セキュリティを批判していたのはなんだったのかという話になり、にわかには信じがたい。