「松本清張賞」は横山秀夫、山本兼一、葉室麟、青山文平、阿部智里など多くの人気作家を輩出してきた。第26回(2019年)の受賞作『へぼ侍』は、綿密な時代考証による歴史エンタテイメント長編小説だ。
主人公の青年・錬一郎は明治維新で没落した士族の家に生まれ、幼くして商家に丁稚奉公に出された。1877年に西南戦争が勃発し、明治政府は旧士族を「壮兵」として徴募する。喜び勇んで参加を決意した錬一郎だが、所属部隊は、はみ出し者たちの巣窟だった――。
「大学で受けた近代史の講義で、指導教官が『西南戦争の新政府軍の編成を見ていると、なぜか大阪から剣客集団が参加している』と話していて。近代的な新政府軍と、前時代的な士族の戦いという勝手に抱いていたイメージを崩され、強く印象に残っていたんです」
受賞者の坂上泉さんは東京大学文学部で近代史を専攻していた。現在は会社員として働いている。
小説を執筆するきっかけとなったのは、赴任中に受講していた「小説家養成講座」だった。
「就職後、大阪に赴任していた間、京都にある『天狼院書店』の小説家養成講座に通っていました。せっかく小説を書き上げたのだから、文学賞に応募してみよう、と。まさかデビューできるとは夢にも思っていませんでした(笑)。今後は仕事も小説も欲張ってやっていきたいと思っています」