復讐の物語というより、人生の空回りを描いた
――『よこがお』は、筒井真理子さん演じる市子の復讐が進む過程で徐々に彼女の過去が明らかになっていきますが、監督は、この映画をいわゆる復讐劇として作られたのでしょうか。
深田 復讐の物語というより、人生の空回りの物語かなと思っています。散々空回りをしたあげく全部何の意味もなかったと悟る。それでも人生はただ続いていくという現実を描いたつもりです。
――市子はある意味で非常に可哀想な人にも見えますが、彼女が幼少期の甥・辰男に対してしたこともかなりショッキングに描かれていますよね。あの行為があることで、彼女がただの無実の被害者とは言えないのかもしれないという感覚が観客にも芽生えてしまう、非常に怖いシーンだなと思いました。
深田 市子は可哀想な被害者である一方、まったく罪のない人間と言い切れない部分もあるんですよね。市子自身は軽いこととして扱っているけれど、辰男は実際にそのことで深く傷ついたのかもしれない。そもそも基子に促されたとはいえ市子がずっと口をつぐんでいたのは、彼女が持つ弱さのせいであり、その弱さこそが罪だったともいえる。でもその弱さは人間誰もが抱えるものだし、そもそも現実世界は、善と悪、罪と罰という二項対立では測れない。そうした曖昧さをそのまま描きたかったんです。
――市川実日子さん演じる基子の市子に対する視線は、いわゆる恋愛的感情と見ていいのでしょうか。
深田 見る人によって捉え方は違うと思いますが、僕としては恋愛感情と言ってもいいんじゃないかと思います。基子は、市子が好きになってだんだんと距離感を見失っていく。同じように、辰男も一目惚れがきっかけで、道を踏み外してしまう。意識していたのは、人が人を好きになることの難しさです。