今年7月、大阪府枚方市の遊園地「ひらかたパーク」で、アルバイトスタッフが亡くなるというショッキングなニュースがあった。原因は熱中症だった。
他にも連日の猛暑の中、相次ぐ熱中症による体調不良で倒れる人が続出。総務省消防庁によると、今年7月29日~8月4日までに熱中症で緊急搬送されたのは1万8347人、死亡数は57人に上っている。
予防策は、決して他人ごとではない「熱中症」をまずは知ること。週刊文春で様々な視点から取り上げてきた、真夏の猛威「熱中症」企画をここに紹介する。
※「週刊文春」2013年8月29日号より転載。記事中の年齢や日付、肩書き等は掲載時のものです。
高齢者の体が対応できない“第2の熱波”
連日の猛暑と熱帯夜。列島を襲う強烈な“第2の熱波”により、熱中症被害は拡大の一途を辿っている。
「梅雨明けの7月上旬に到来した“第1の熱波”の後、涼しい日が続き、体がリセットされてしまった。そこへ再び猛暑が襲ったので、高齢者は変化に対応できず、倒れてしまうのです」(昭和大医学部救急医学講座・三宅康史教授)
今夏、救急搬送されたのはなんと4万7000人以上。梅雨明け以降、都内だけでも110人が命を落としているが、100人が自宅など室内で亡くなっており、そのうち死亡状況の詳細が判明している約80人の半分以上が一人暮らしをしていた65歳以上の高齢者だった。
現場では、いったい何が起きていたのか――。
独居老人が熱中症に気づかず死亡したケース
7月13日、西東京市のアパートで一人暮らしの86歳の男性が死亡しているのが発見された。家賃の集金で部屋を訪ねたアパートの大家が、台所でうつ伏せに倒れてすでに亡くなっているのを発見したという。
「部屋の中はガランとしていて必要最低限のものしかありませんでした。冷蔵庫の中も空っぽで、エアコンもなく、ガタガタと音を立てて動くような古い扇風機が1つだけ。窓は開いていましたが、裏の家の壁が近く、風通しが良いとは言えない部屋なんです」(アパートの大家)
死因は熱中症による臓器不全と考えられた。
桐蔭横浜大の星秋夫教授はこう推測する。
「高齢になってくると、暑さの感覚が鈍ってくるので、エアコンがなくても平気だったのでしょう。また、手足の汗腺も衰えてくるので汗をかきにくくなる。猛暑日が続けば、部屋の中でじっとしていても脱水症状が徐々に進行します。やがて重症度の熱中症で意識を失い、そのまま死亡してしまったと考えられます」
もう1つの大きなリスクは、地域社会から孤立した環境で独居老人が熱中症に罹(かか)っても、誰もそれに気付かないということだ。
このケースもそうだった。男性は、以前は静岡で社員30人ほどの工具関係の会社を営む社長だった。だが、10年ほど前に会社は倒産。都内に住む長女を頼って上京して来た。このアパートには5年前に移り住んできたが、周囲に知り合いもなく、長女が訪ねて来ていた様子もなかったという。