文春オンライン

「絶対に笑ってはいけない吉本興業24時」など大企業不祥事に見る時代の節目

反社会的勢力をどうやって見分けるのか

2019/07/26
note

安全宣言なんか出せっこない

 芸人が給料安すぎて飯が食えないという事情から直営業・闇営業の話が出ていましたが、実際の本丸は反社会的勢力との取引関係があったよという問題で、じゃあカラテカ入江慎也さんだけが悪かったのか、いま出てきて謝罪している芸人さんたちだけが問題なのかと言われると、私はそうは思いません。

 トカゲのしっぽ切りだと思われかねない本件は、実はほかにもいろんなパーティーピープルが芸人を札束で呼べると斡旋する人物がいたならば、いったんは静かになってもまた変な話がどんどん出てくると思います。そればかりか、契約書にうっかり「反社会的勢力と付き合った話が出たら契約解除やで」とでも書かれていようもんなら、以前問題を起こしたその芸人が本人たちや吉本営業の努力で売れて、ディズニーアニメの声優の仕事でもゲットした後で「いや、実はこういう写真がありまんがな」とか言われて更なる騒動にということもあり得るわけです。

 岡本社長がのらりくらりと長時間、号泣してまで内容の乏しい記者会見をやったのも、つまりは「安全宣言」を出せない状態で責任者を会見場で吊るし上げても泣いて謝る程度以上の内容なんか出てこないってことです。登録だけで6000人もの芸人がいる、そしてほとんどが契約書もない大組織で、一人ひとりに「なあ、おまえ暴力団のところに行って金もらったか?」と訊いて回るわけにもいかないでしょう。

ADVERTISEMENT

 本当のことを喋るかどうかは、会社やマネージャーさんとその芸人さんたちの信頼関係によるところが大きいのです。正直に「や、なんか怪しい奴らの宴会に呼ばれて行ったらお金入った袋を渡されました」と言われて「何でそれを先に言わんのや! 仕事やめちまえ!」などとドヤされたり干されたりすることを怖れれば、正直にはモノを言わないでしょう。

 さらに、演芸の世界で劇場に日々行きマイク1本前にして舞台に立つベテラン芸人さんたちに対して「すいません、会社的にヤバいんで、契約書作ったんです。サインしてください」と言えるのかどうか。会社の危機に際して快く応じてくれる芸人さんもいるでしょうが、そうでない人もいるかもしれません。

 でも、時代が移り変わり、これだけ人の見る目も厳しくなったのだから、単に芸能界の口約束は信義をもって守ろうというだけでなく、ちゃんと契約してやっていかないと吉本興業であろうと火達磨になるということなんでしょう。何より、仕事として漫才師をやってます、コント師です、というだけでは食べていかれないので、アルバイトをしながら芸を磨いている芸人さんたちというのはたくさんおられます。

©iStock.com

問題が起きたとき、対応できる信頼関係はあるか

 暴力団絡みで言えば、まだまだいっぱい出てくるのかもしれません。それは、吉本興業の所属芸人さんたちの問題だけではなく、変な仮想通貨界隈だったり、キャバクラチェーン店のオーナー筋など、あまり一般人とは言えない人たちが蠢いている世界でこういうネタは多数出てくることになると思うんですよ。

 実際、芸人に限らずこういう仲介者に頼むと「ギャラ払えば芸能人ぐらい来てくれますよ」とICT起業家の集まりにカネに釣られた女優や女子アナウンサーがやってきて写真撮られてネタにされるということは日常茶飯事であり、釣られてほいほい行く側も「相手が反社会的勢力なのか?」「問題のある会合か?」などとは訊かずにやってくるケースがあります。これは事務所が守ろうにもタレント、芸人、俳優本人が怪しい人たちと関わらないように制御するのもむつかしいのです。