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「絶対に笑ってはいけない吉本興業24時」など大企業不祥事に見る時代の節目

反社会的勢力をどうやって見分けるのか

2019/07/26

 吉本興業が大変なことになってしまい、私も見ていて「ああ、吉本らしいトラブルが大きくなってしまったなあ」という印象を強く持つわけなんですが、急成長した大企業とスキャンダルの事例を見ていると、今回の吉本興業の件もけっこう典型的な経緯を辿っていることが分かります。 

吉本興業・岡本昭彦社長の号泣会見 ©吉田暁史

2005年のお家騒動で戦った大崎洋会長

 まず何より、もともと吉本興業の大崎洋会長というのは、2005年の御家騒動でもあったとおり、暴力団排除をしようとして頑張った側の人物で、吉本興業の創業家である林さん一族と争った経緯があります。

 吉本興業の御家騒動では多くの週刊誌を巻き込んで騒ぎになったんですけれども、急死した創業家元会長の子息の役員就任を山口組系の人物に要求されたと大崎さんが2007年に「週刊現代」(講談社)に告発。それを受け、元会長奥さんの林マサさんが「週刊新潮」(新潮社)誌上で反論することで大騒ぎになります。結論として、暴力団排除を掲げた大崎さんが創業家を排除して勝利、そのまま吉本興業は大崎「ワンマン」体制でのびのびやり、急成長を遂げるんですけれども、残念ながら一部の大変不適切な取引関係は残ってしまったようです。

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 演芸、芸能界と暴力団というのは古くから抜き難い関係を持ちつつ現在にいたるのですが、「週刊文春デジタル」でも島田紳助さんが語っている通り「大崎洋がいないと吉本興業は潰れる」というぐらい、吉本興業の歴史においては中興の祖である大崎さんの影響力と能力は重要です。そして何よりもっぱら裏表のない人格で、性格も経歴もバラバラな大量の芸人とマネージャーと裏方をまとめ上げて吉本興業を売上500億の芸能事務所にまで成長させてきたと言えます。

吉本興業のお寒い内情

 テレビ業界に目を向けると、まったく鳴かず飛ばずのフジに日枝久さんという名物編成局長がおり、「楽しくなければテレビじゃない」という方針のもとで、看板番組となった「オレたちひょうきん族」以下フジテレビの黄金時代を築き上げるようになります。そして、徐々にネットの時代となりテレビが唯一のメディアではない状況に差し掛かると、いままで成功の法則であった歯車が徐々に逆回転をはじめ、伸び悩みから鈍化、そして凋落待ったなしと、微妙な状況へと落ち込んでいく。成功体験が通用しなくなると、それによって組織も人事もコンテンツ制作も右へ倣えで頑張ってきたものが修正できなくなり、まともな人から辞めていくことになるのです。

 吉本興業の場合は、暴力団排除にこれだけ頑張ってきた大崎さんが陣頭指揮を執り続けてなお、10年かけてもまだ反社会的勢力に付け込まれて寒いことになっているというのはびっくりです。それどころか、会社と芸人さんたちの間で契約書も交わしていなかったとかコンプライアンスどころの騒ぎじゃない話も飛び出して、流石にこれはちょっとなあと思うところがあります。

©iStock.com

 もちろん、宮迫博之さんの問題で吉本興業が初動の対応を間違えたので、ここまで大騒ぎになってしまった部分はあると思うんですよ。ただ、「こういう問題がある」「ああいう事案もある」と続々と飛び出してくる中で、いまの時代に照らし合わせて吉本興業が遅れている部分がこれだけ露わになり、岡本昭彦社長が号泣会見をやって晒し者にされてなお、世間の批判が収まらないというのは「吉本も調子に乗っていたよね。いい気味だ」ぐらいにしか思われていないからなのかもしれません。吉本興業も開き直らざるを得ず、これを機に、今風の経営に切り替えるチャンスだと思って乗り越えていくしかないのでしょう。