私が関わった1993年のスパイ事件と、今回の2019年のスパイ事件については、#1「“輸出規制措置”への対抗策? 韓国が「日本人防衛駐在官スパイ事件」を政治利用か」と#2「『韓国スパイ事件』フジテレビ支局長は逮捕され、私は“黒幕”に仕立て上げられた」で記してきたとおりだ。

 最後となる本稿では、この2つのスパイ事件を基に、韓国当局がスパイ事件を政治利用する「常套的手法」について考えてみたい。

韓国にとって北朝鮮と中国は“脅威”ではない

 第1に、韓国が日本を挑発する国際環境についてである。

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 韓国が、天皇謝罪発言、レーダー照射事件、従軍慰安婦、徴用工問題などで日本を挑発するのは、大陸正面にあたる北朝鮮と中国の脅威が切迫していないからである。私が関わったスパイ事件の時も、冷戦崩壊直後で、中国も北朝鮮も内政に手一杯だった。両国は韓国に脅威を及ぼすレベルではなかったのだ。

文在寅大統領 ©getty

 では、日本として韓国の挑発を抑えるためにはどうすればいいか。私は「遠交近攻戦略」に基づいて、日中・日朝外交関係の改善を図ることだと考えている。すなわち、南北の対立を図ることを追求すれば、日本に対する挑発は緩和できるわけだ。とはいえ、北朝鮮の核ミサイル開発や拉致問題があるため、日朝関係を改善することは容易ではないだろう。

追い込まれた文在寅政権が飛びついた苦肉の策

 第2には、韓国は外交的葛藤において「手段を選ばない」国であるということだ。韓国は、朝鮮戦争後の南北の分断・対立の中、北朝鮮とのせめぎ合いを通じて鍛えられ、抗争に習熟した国家である。北朝鮮の“荒業”に対抗するためには、「手段を選ばない」ことがマストだとされてきた。

 前述した通り、2019年のスパイ事件は、韓国の世論を内向きにさせる上で大きな効果を持つ。日本の防衛駐在官が韓国政府から「ペルソナ・ノン・グラータ」(好まれざる人物)認定されて追放されたという話を流すのは、政権にとっては自分たちへの批判の目を日本に逸らせる、という意味で極めて好都合である。日本による輸出規制を受け苦境に追い込まれた文在寅政権がそれに飛びつかないわけはないのだ。