「黒い手帳」には何が書かれていたか
当時の捜査報告書によると、元執事は運転手、伝令、接客も担当。担当の延長で少女への車の提供、少女への薔薇の贈呈、「マッサージ」後に散乱したバイブレーターの片付けもしていた。捜査官は、元執事について宣誓供述書でこう説明する。
「(元執事は)捜査対象(エプスタイン容疑者ら)が自分を消したり傷つけたりすることを恐れており、(手帳の)情報は自分の保険だと主張した」
オンラインニュースサイト「ゴーカー」が公開したこの手帳のリストは膨大だ。
トランプ大統領、ハリウッド俳優のアレック・ボールドウィン、金融界の大立者のデイヴィッド・ロックフェラー、イスラエルのエフード・バラク元首相、大富豪ジョージ・ソロスの甥などの名前がズラリ。「マッサージ」の項にはマッサージ嬢とみられる連絡先もある。その意味するところは憶測の域を出ないが、この元執事は数年前に病死した。
「王子と性交渉をした」?
一番の窮地に立っているのは、黒い手帳の住所欄に「バッキンガム宮殿」と明示されていたイギリスのヨーク公、アンドルー王子かもしれない。チャールズ皇太子の弟だ。
本人は公式に否定しているが、マイアミ・ヘラルドなどによると、エプスタイン容疑者に王子を紹介されたとされる元少女が別件訴訟で「エプスタイン容疑者の性奴隷にされ、王子と性交渉をした」などと主張したとされる2000点もの文書が存在するからだ。
元少女の主張自体は「根拠が薄い」などとして裁判所に退けられて封印されたはずだったが、図らずも今回の捜査に先立つ7月3日、資料公開を求める弁護士らの控訴審で米裁判所が「被害者の利益がプライバシーに優先する」として公開を認めた。
次から次へと膨らむばかりの疑惑。前回の捜査の際は友人関係について口をつぐみ、捜査のねじ曲げにも成功したエプスタイン容疑者だが、捜査機関が本腰を入れ、長期の刑が現実味を帯びてきたいま、その口を閉ざす意味は残っているのか。果たしてエプスタイン容疑者自身がパンドラの箱を開けるのか、それとも……。固唾を飲んで見守っているのは、長年被害に苦しんだ元少女も、他にまだいるかもしれない加害者も同じだ。