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4年ぶりのお立ち台 ファイターズ・谷口雄也選手がたくさんの苦しみを乗り越えるまで

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/08/06

苦難を乗り越えた「ヒーロー」の姿

 去年、なかなか一軍に上がってこない谷口選手に話を聞くために鎌ヶ谷に行った。
膝はほぼ回復していたけれど、けが前の野球の感覚が戻ってこないことに焦りを感じているようにも思えた。膝を含めた下半身の動きもやっぱり気になるようだった。

 一軍では6試合、思い通りにいかない2018年が終わり、背番号は4になった。一桁の背番号はもちろん誇らしいことだけれど、その分、見合う活躍が期待される。

 今季は開幕は一軍スタート、5月に再昇格し、5月11日には札幌ドームで今季初のスタメン出場、術後初のヒット。その翌日の母の日には術後初ホームラン。3年ぶりの一打は手術を支えてくれたお母さんへ最高のプレゼントになった。

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 そして、7月31日の決勝打。清宮選手の代打でコールされると、スタンドには一斉に応援ボードや名前入りのタオルの花が咲いた。すぐに出せるようにみんな用意している。待っている。打って2塁に到着した谷口選手がガッツポーズした時はスタンド中が沸いた。ベンチも沸いた、特に中田選手は両手を突き上げて顔をくしゃくしゃにしていた。中田選手も膝の手術の経験がある。自分よりも更に大きな手術を乗り越えた谷口選手の日々をきっと思ったことだろう。代打を出された清宮選手に笑顔はなかった。先輩の姿から何を思っただろう。

 谷口選手はその日、一人で札幌ドームのお立ち台に立った。2015年以来の久々のヒーローインタビュー。汗にまみれた顔には、もしかしたら違う水分も混じっていたかもしれない。自分の活躍よりもチームのことをたくさん話していた。せっかくの一人お立ち台なのに、独り占めしないところが谷口選手らしい。でもプレーでは遠慮はない。数少ないチャンスをひとつひとつ物にしようとしている姿には「必死」という言葉がぴったりだし、鍛え上げられさらに大きくなった体には貫禄すら感じる。きっと手術をして新しくなった右膝とも仲良くなれたんだろう。

 もう雨を見て、あの言葉を思い出して心配する必要はないのかもしれない。そうだ。これからは、雨を見たら、苦難を乗り越えた「ヒーロー」の姿を思ってにっこりしよう。次に傘をさす日が楽しみだ。

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