しかし、特定の個人や集団への安易な責任の押し付けや罵倒は、単なる現実からの逃避であり、実際にはそれにより問題が解決する訳ではない。とりわけこの20年間、頻繁な「ベンチ」の交代とその結果を見てきたオリックスファンならその意味はよくわかる筈だ。だからこそ、シーズンが後半に入ったこの時期、我々は安易な「ベンチ」への批判を浴びせる前に、今シーズンの「ベンチ」が何を目指して来たのか、そして彼らが実際に何を成し遂げたのかを、一旦冷静に振り返る必要がある。
オリックスの「ベンチ」について評価すべき二つのポイント
そしてこの観点から今シーズンのオリックスの「ベンチ」の仕事を振り返った時、我々はそこに大きく二つの評価すべき成果がある事を知る事ができる。一つは言うまでもなく、山本由伸をはじめとする若手投手陣の成長であり、このチームのファンの中に、この点に異論を挟む者はいないだろう。本コラムでも繰り返し書いている様に、彼らの成長は金子、西、と言うこれまでのチームを支えて来た二大エースの流出を補うに余りあるものであり、チームの大きな希望となっている。
評価すべきポイントの二つ目は、盗塁数の大幅な増加である。現在のチーム盗塁数は93で西武に次いで2位。昨年度は年間を通じて97盗塁だったから既にその数に迫っている事になる。キャンプから強調された積極的な走塁の重要性は、シーズン中盤になってチームに定着した感があり、昨年まで脚を有効に使えなかったチームは、今シーズン、リーグでも最も積極的な走塁を見せるチームの一つになっている。とりわけ一番打者に定着した福田の活躍は目覚ましく、プロ入り2年目でありながら、正にチームの顔の一人に相応しい存在に成長したと言える。昨年と比べて選手の大きな入れ替えがない中でのこの変化は、嘗て4年連続でリーグ盗塁王の座に君臨した西村監督の面目躍如と言うべきであろう。
勿論、物足りない点がない訳ではない。とりわけ打線の得点力不足は深刻であり、相変わらず主砲の吉田正尚に頼りきりの状態が続いている。しかし、この状況は寧ろ、中島、小谷野の二人が抜けたにも拘らず、積極的な戦力強化を怠ったフロントの責に帰せられるべきである。「ベンチ」に打つ手があったとは思えず、これを批判するのは酷である。リリーフ陣の不振も同様であるが、この点については遅ればせながら、ディクソンの抑えへの転向が成功し、今後に期待が持てる状態になりつつある。
強調すべきは、成績こそ「例年並み」であれ、今年のオリックスは「シーズン当初に予定していた野球」がある程度できている事である。だからこそ、筆者は今の「ベンチ」を評価したい。若返ったメンバーを中心とした、スピード感のある野球で残り2ヶ月、リーグを思う存分掻き回して欲しい。ファームにはT—岡田や杉本ら、得点力不足を補うに足る選手も控えている。「ベンチ」の評価をするのはそれからでもきっと遅くない。そして何よりも、「シーズン」はまだ続くのだ。
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