「いよいよ、“打てるキャッチャー”として、本格的に花開くんだなぁ」と、今季の活躍がとても眩しく映る。

 ルーキーの頃、試合後の個別守備練習で、ワンバウンド捕球の練習の際、バッテリーコーチの投げた球が顔付近に跳ね、思わず「怖いぃ〜」と口走り、周囲のコーチ陣を大爆笑させていたことも、今となっては懐かしいエピソードだ。
 
 あれから6年もの月日が流れ、森友哉選手がついに正捕手の座を完全に射止めようとしている。

 ここまで、決して順風満帆だったわけではなかったことは、ライオンズファンが一番ご存知だろう。

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正捕手の座を完全に射止めようとしている森友哉 ©時事通信社

「いよいよだな」と感じさせる理由

 その圧倒的な打力が諸刃の剣となったこともあった。「捕手として出場する日は、守備で頭がいっぱいになり、打撃が落ちる」と評価され、2年目、3年目は、DH、もしくは外野手として起用された。「このまま、打撃に専念した方がいいのでは」との見解を述べる評論家、解説者なども少なくなかったほどだ。

 しかし、4年目の2017年、「“打てるキャッチャー”を目指してプロに入ってきたんやから、キャッチャーで勝負したい」と、はっきりと明言し、本格的に正捕手争いに名乗りを挙げるかに見えたが、開幕前の対外試合で死球を受け、左肘を骨折。シーズンの大半を棒に振った。

 その悔しさを最大のモチベーションに、昨季はリーグ優勝したチームの中で、捕手として最多の81試合に出場し、経験を積んだ。そして今年、長きにわたり正捕手の座に君臨し続けてきた炭谷銀仁朗選手からバトンを受け、開幕からほとんどの試合で先発マスクを任されている。

 今季、「いよいよだな」と感じさせるのは、森選手が自身の中で掲げている“打てるキャッチャー”の基準、「打率3割」と「100試合以上先発マスク」をしっかりとクリアしているからだ。特に打撃は圧巻だ。今季は一度も3割をきらずにここまできた。さらに言えば、打率ランキングでも首位を走っている(8月10日終了現在)。「今年は、バッティングのことで深く悩んだことはほとんどない」との本人の言葉が証明するように、調子の波をほとんど作らず、安定した成績を残せている。また、先発マスクも87試合(8月10日終了現在)。残り40試合を考えれば、100試合到達はほぼ間違いないだろう。

 また、チーム内での存在感も、これまで以上に圧倒的なものとなっている。「ここまで毎日続けてマスクをかぶるようになったのは初めてで、3試合を見据えての配球など、本当に難しい」と、リード面において昨季以上に苦労しているのも確かだ。勝ったり負けたりの繰り返しで、落ち込むことも少なくないという。その上、残念ながら、今季チームには、『絶対的エース』と言える先発投手が不在となっている。辻発彦監督も「若い投手ばかりで、要求したところになかなか球が来ない。リードという部分で、ものすごく友哉は頭を悩ませていると思う」と、労う。投手陣からも、「要求通りに投げられずに申し訳ない」との言葉が多く聞かれる。そうした事情もある中でも、最後の最後まで投手一人一人、それぞれの良さを懸命に引き出し、勝利に導こうと奮闘する姿や、誰よりも早くグラウンドに降りてストレッチやウォーミングアップをするなど、練習、試合へ向けた準備を整える毎日の姿勢に、投手野手関係なく、チームメイトたちは全幅の信頼を寄せているのである。