文春オンライン

鳥取一の進学校・米子東をセンバツに導いた「超合理的思考法」とは――2019上半期BEST5

部員16人の公立校はなぜ躍進できたのか

2019/08/13
note

『ダラダラする』時間込みでタイムマネジメント

 こういった大きな枠組みができてくることで、学生の頭の中でやるべき行動が細分化され、クリアになっていく。

「ここまで来るとどんな目標を達成したくて、どんなことを成し遂げたいのかが見えてきて、1日のルーティーンを考えることができるわけです。例えば『目標達成にはパワーが足りないから朝、自主練で筋トレをする。その後、教室に上がったら英単語勉強をする』とかですね。『授業の合間の10分休憩は英単語を勉強する』『家に帰ったら○○をやる』みたいなものを5W1Hで全部紙に書きだしてスケジュールを考えるわけです」

 ただ、高校に入って来たばかりの生徒にいきなり部活も勉強もバリバリやるようなルーティーンを組ませても、当然実行は無理なのだそうだ。

ADVERTISEMENT

「だから最初は『積極的にダラダラしてね』と言っています。時間が空いたからダラダラするんじゃなくて、タイムマネジメントの中にダラダラすることを入れる。スマホを使うとか、ダラダラすることとか、そういうことも積極的に時間を決めて習慣にしてくんです。毎日書く生徒のタイムマネジメント表を見ると、ダラダラっていっぱい書いてありますよ(笑)。ウチだとエースが1番多いですね。そのルーティーンを決めると、実際に自分で毎日のタイムマネジメントをし始めます。授業の合間も休憩時間が来て『休憩時間はなにをしよう』と考えるのと『今日の休憩時間はコレをやろう』と予め決めているのとでは全然違うんです」

グラウンドでの全体練習は1日3時間ほど。あとは個々人のタイムマネジメントに任されている

土日の全体練習は朝10時半には終わりますよ(笑)

 何事においても事前に準備をしておくことが、紙本の考えだ。

「今まで言ったことって基本的には勉強に活きることですよね。授業の間の空いた時間に勉強するとか。でも、このスケジューリングを習慣にしておくと、野球も強くなるんです。自分に打席が巡ってきて『この打席、どうしよう』という発想じゃなくて『次の打席はこうしよう』と思える。これも1つの習慣だと思うんですよね。思考の習慣。人って結構、無意識に考えていることが多い。無意識に先のことを考える、マネジメントをするということにつながる。これがさっき言った『文武不岐』ということなんじゃないかと。野球のことでもこうやって目標設定させると、本当に効果絶大ですから」

 こうしてルーティーンができ、目標に向けた努力が習慣化すると、学生たちは凄まじい力を発揮するのだという。

「ここまで来ると生徒は勝手にいろんなことをはじめます。だからこっちはもう、ブレーキだけですね。練習しすぎはダメだというくらいで。とにかく食事、休養は練習より大事だよと言い続けていますね。ウチにある唯一の決まりは『睡眠時間を7時間以上取ること』ということだけです。そうしないと夜遅くまで練習したり、勝手に朝練し始めたりしちゃうんで……グラウンドが使えない日は、ひたすらはやく練習を終わります。最低限のトレーニングだけして、土日だと8時から全体練習をはじめて10時半とかに終わりますよ(笑)。でも結局、夕方まで彼らは自主練習するんです。残りの時間をどう使うかは自分でマネジメントしろよと。エースの森下(祐樹/2年)なんかはそこでダラダラするのが多いんですけど、そういう力の抜き方も上手だと思いますよ。だから監督は練習が終わったらすぐに帰ります。僕らが見ていると『監督が見ているからもうちょっと残ろうかな』みたいな外発的な動機になっちゃうので、とにかく早く姿を消します(笑)」

エース森下祐樹(2年)を中心にチームづくりをしてきた