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「怖い話」にはリアリティが求められる

 上述の『ほん怖』をはじめ、怪談もののテレビ番組や書籍は「一般人から投稿された体験談」という形を取るものが多い。

「怖い話」を「怖がってもらう」ために、「実際に誰かの身に起こったこと」=「自分の身にも降りかかるかもしれないこと」だと思わせるのは有効なテクニックだからだ。

 視聴者・読者の共感が「怖い話」を支えるのだとすれば、「みんなで心霊スポットに行く」物語が語られなくなったもうひとつの理由が見えてくる。

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 総務省の「全国消費実態調査」によると、30歳未満単身世帯(ちょうど、こうした怪談の主人公に選ばれる世代だ)の自動車保有率は、1999年には55.3%だったのが2014年は44.0%にまで減少している。都市部を中心に「若者の車離れ」が叫ばれて久しい時代にあって、そもそも「ドライブ」中に起こる「怖い話」が共感に足るだけのリアリティを逸してしまったことは想像に難くない。

©iStock.com

 さらに言えば、「仕事でやむなく」型の物語や「事故物件に住む」物語の台頭もまた、若者を取り巻く環境の変化を反映していると言える。

若者の貧困が新たな怪談を生んだ

 世帯主30歳未満の世帯の月平均支出額は、1999年の20万1380円から2014年には18万1727円と、約2万円も下がっている(消費者庁「平成29年版消費者白書」)。家賃などの住居費が累積で4619円上がっていることや、スマートフォン・携帯電話の必需品化で通信費が増えていることを考えると、実際の支出額はさらに落ちていると考えられる。

 ブラック企業による搾取、望まない非正規雇用といった労働環境の劣化が、若者に十分な手取りを与えず、娯楽に費やす時間を奪っていく。不安定な雇用と社会保障への不信感が、退職を思い留まらせ、節約と貯金に意識を向かわせる。

「どんなにキツくても、今の会社を辞めたら行く場所がない」

「生活にかかるお金は1円でも切り詰めないと」

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 そうした逼迫感が、多くの視聴者・読者に「仕事でやむなく」型の物語や「事故物件に住む」物語をリアリティあるものとして受け入れさせているのではないだろうか。

 若者の貧困が、「車を買ってみんなでドライブ」という「カネのかかる娯楽」で起こる怪談を時代遅れにさせ、「生活」への強迫観念を背景にした新たな怪談を生んだのだとしたら、それが一番「怖い話」と言えるかもしれない。