1975年11月、アメリカ合衆国アリゾナ州で森林作業員をしていたトラヴィス・ウォルトンが失踪した。 

 失踪現場に戻るのを拒むほど、恐怖に震えていた同僚の若者たちが話したのは「トラヴィスはUFOに誘拐された」という衝撃の証言だった。

 70年代の米国は、「アメリカ人の51%がUFOの実在を信じており、11%が目撃した経験がある」(73年、ギャラップ調査)という調査結果もあったくらいの“SF・オカルト大国”だった。当時の空気感をあますことなく伝える、前述のトラヴィス・ウォルトン事件”を追った記者のレポートを再掲載する。

 

初出:文藝春秋デラックス『古代の遺跡とUFOの謎』1976年7月号
※本文中は当時の表記のまま「トラビス」に統一しています

(全3回の3回目/#2より続く)

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「トラビスの体験は真実であると確信している」

 10日後、トラビスは事件後はじめて姿を現わした。ロレンゼン氏と共にCBS系のテレビ番組「フェイス・トゥ・フェイス」に出演したのだ。この中でAPRO会長はようやく次のように語った。

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「トラビス事件は、3カ月前にニュー・メキシコで起きたものと酷似していて驚いている。8月13日の午前1時半頃、ある男(名前は公表できない)がUFOに誘拐された。あとで地上に帰されたが背中に負傷しており、放射性障害も受けた。この人は、トラビスが語ったのと全く同じタイプの“宇宙人”と“UFO内部”の描写をしている。ところがこの事件は、APROのみに報告され、公表されていないから、トラビスが知っていたということは、絶対にありえない。我々はこの点からも、トラビスの体験は真実であると確信している」

テレビ出演中のトラビス(左) ©文藝春秋

――この番組で、質問に答えるトラビスは弱々しい声で、終始伏し目がちのオドオドした感じだった。この時の彼の“体験談”を、のちに筆者が直接インタビューして得た話と合わせて、以下に再現してみよう。

トラビスがようやく語った”宇宙人と暮らした6日間”

 逃げようとした時、頭を殴られたような衝撃をうけ、あとはわからなくなった。光線などは、何も見えていない。気がつくと、頭と胸がひどく痛み、目がカスんでいる。

 やがて低い天井と上から射し込む光に気づき、小さな病室のような部屋のテーブルみたいなものに寝ているのがわかった。3体の小さな人間のような生物が、上にかがみこんでいたので、ギョッとして起きた。その拍子に胸の上にあった箱のようなものが床に落ち、音がした。それは少し弓なりになっており、はだけた胸にのせてあったが、何もコード類などはなかった。箱が床で揺れ、それから出た光も揺れていた。

トラビスが寝ていた部屋(すべてトラビスと筆者の合作になるもの) ©文藝春秋

 彼らも驚いたようだった。胎児のように未発育の生物に見え、頭の皮膚はマシュマロのようで真っ白く、目だけが大きくて耳、口、鼻は小さい。眉毛も髪もなかった。手には5本の指、しかし爪がない。身長は1メートル半か、それ以下で、同じような茶がかったオレンジ色の、ゆるい上衣を着ていた。手首と首の部分はしまっていたが、ベルト、ボタンの類は見えなかった。

 私は大声をあげて飛びおり、部屋の隅に寄って身を守るものを探した。透明なプラスチックの筒のようなもの、50センチぐらいの棒が手に触れた。手に握って身構えた。“連中”は「やめろ」というような身振りをし、さっと部屋から出てしまった。