1975年11月、アメリカ合衆国アリゾナ州で森林作業員をしていたトラヴィス・ウォルトンが失踪した。
失踪現場に戻るのを拒むほど、恐怖に震えていた同僚の若者たちが話したのは「トラヴィスはUFOに誘拐された」という衝撃の証言だった。
70年代の米国は、「アメリカ人の51%がUFOの実在を信じており、11%が目撃した経験がある」(73年、ギャラップ調査)という調査結果もあったくらいの“SF・オカルト大国”だった。当時の空気感をあますことなく伝える、前述のトラヴィス・ウォルトン事件”を追った記者のレポートを再掲載する。
初出:文藝春秋デラックス『古代の遺跡とUFOの謎』1976年7月号
※本文中は当時の表記のまま「トラビス」に統一しています
(全3回の1回目/#2へ続く)
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アメリカでは半数以上が「UFOは実在する」と回答
アメリカでは一般大衆のUFOに対する関心が高い。73年のギャラップ調査では「アメリカ人の51%がその実在を信じており、11%がUFOを目撃した経験がある」という結果が出ている。
地方都市の成人向け夜間講座には「UFOLOGY」なる課目が堂々と存在し、毎回受講希望者が殺到している。多くの科学者や技術者、専門家もUFO現象解明に力を注いでおり、昨年10月にはアーカンサス州フォート・スミスで、「UFOコンファレンス」と銘打った大規模な会議が催され、全米はもちろん世界各国から、著名な科学者や研究者が集まって、意見交換を行ったほどである。
こんな状況だから、アメリカのマスコミのUFO関係記事も、からかい半分の取り上げかたは比較的少なく、出来るだけ客観的に伝えようとする努力がうかがわれる。たとえばここにご紹介する「トラヴィス・ウォルトン事件」などは、アメリカ人のUFOへの関心度、マスコミの対応のしかたなどを示す好例であるといえそうだ。
「夕陽かな?」空中に浮かぶ、光り輝く物体が出現!
アリゾナ州の州都フェニックス市。そこから北東へ車で3時間、サボテンの生えた丘陵地帯を越えたところに、ナバホ群ヒーバーという小さな村がある。人口600というこの片田舎で、驚くべき大事件が発生したのは、75年11月5日、水曜日の午後6時15分頃のことだった。
村から南へ約20キロ、国有林の山道をガタガタの小型トラックが走っていた。
1日の伐採作業を終えた作業員が7人。マイケル・ロジャース(28)、彼の妹の婚約者トラビス・ウォルトン(22)、ケネス・ピーターソン(25)、アラン・ダリス(21)、ジョン・ピアス(17)、いずれも若者たちばかりだった。
運転台にいたロジャースは、ふと前方右手の松林の向こうに、黄色っぽく輝くものを見つけた。「夕陽かな」と一瞬思ったが、それにしては向きがおかしいなと、なおも車を進めた。そして、7人はそこに大変なものを発見したのである。
車の右手の、約20メートルあまり離れたその空地に、光り輝く物体が、5メートルほどの空中に浮かんでいたのだ。
直径約5メートル、高さ約2.5メートルのその物体は楕円形に見え、黄白色に輝いていた。窓のようなものはなく、黒っぽい“わく”のような線が何本か見えた。
助手席の(右側)にいたトラビス・ウォルトンが「止めろ!」と叫んだ。そしてまだ止まり切らないうちにドアをあけ、好奇心に駆られたように、その物体のすぐ下まで走って行ってしまった。残った仲間たちは、「早く戻って来い」と口々に叫んだ。異変が起こったのは、その時だった。