人生80年時代、いや100年時代とも言われ始めた。老後は2000万円の貯蓄がないと生きていけないなどとも叫ばれだした。安定した年金の支給に危機感をいだいた国は、その責任を企業に押し付け、定年を65歳から70歳に引き上げることを義務付けようとしている。

 企業側もたまったものではない。定年の延長は人件費負担の増加に直結する。国はシニア人材の活用を、と綺麗ごとを並べるが、社会人になりたての頃からずっと雇い続けてきた企業からみれば、一部の優秀な社員を除いた大半はすでに「用済み」というのが実態だ。

 出世競争には負け、会社に対するロイヤルティーも失われ、しがみついているだけの社員をさらにあと5年も10年も養わなければならないなんて勘弁してもらいたいというのが本音だろう。

ADVERTISEMENT

©iStock.com

「今に見てろよ」と起業に走る“おじさん”たち

 おじさんだってプライドがある。いやいや雇ってもらい、部屋の片隅に机だけ用意され、元部下が上司になっていろいろ命令されるなんていう毎日が楽しいはずがない。忠誠を尽くしてきたはずの会社に対しても不平不満が溜まり、早く家に帰ると女房や子供にも邪険にされる。そこで彼らは「よおーし、今に見てろよ。俺だって」と考え始める。

 そしてやる気満々のおじさんの一部は起業に走る。「俺は会社でもアイデアマンとして有名だった。会社で俺のアイデアが取り上げられることは少なかったが、こうなったら自分でやってやる」と、鼻息あらく、会社を早期退職して起業というパターンだ。でもその心の片隅には早期退職すれば割増退職金が出る、これを元手とすれば……という計算が働いているのも実態だ。

 起業する勇気までは持てないおじさんは仲間を頼る。学校時代の友達でベンチャーなどを経営する社長に取り入るのだ。「おれは大きな会社にいたから人脈も知恵もある。おまえのために協力してやるぜ」と、その会社に就職するパターンだ。

©iStock.com

そして「人生オワタ」にまっしぐら……

 だが、おじさんの一念発起のほとんどはうまくいっていないのが現状だ。まずおじさんの起業の大半が失敗する。ちょっぴり割増でもらえた退職金なんてあっというまに消え失せる。素晴らしいと思っていた自分のアイデアも妄想にすぎなかったと気づくのに、そんなに時間はかからない。

 頼みの人脈も、ほとんどは自分に価値があったからではなく、所詮会社のブランドがあったから付き合えていたにすぎないとすぐに露見する。現実は冷酷だ。そして金繰りに詰まる。無謀な借金を重ねようものなら「人生オワタ」にまっしぐらである。