その2「仕事は自分で学ぶもの」
ベンチャー企業に活路を見出したおじさんを待っているのが、「役に立たない」という厳然たる事実だ。おじさんが勤めてきた会社は、組織も整い、仕事もある程度定型化されている。ところが意気揚々と就職したベンチャー会社の扉を開けると、おそらくあっけにとられるほど「いい加減」な会社に見えるはずだ。
ベンチャー企業は走りながら経営方針を固めていく。意思決定における圧倒的なスピード、ころころ変わる戦略、思い付きのようにしか見えない投資、コンプライアンスもハラスメントも語られることのない職場……。それを見ておじさんは「さあ自分の出番だ」と考える。だが、ここに落とし穴がある。
おじさんは自分の会社を引き合いに出して、まず社員たちに説教を始めてしまう。「会社っていうのはな」「俺の勤めていた会社ではな」。もちろん良かれと思ってする発言なのだが、社員たちは動かない。というか、そんなおじさんの小言にかまっている余裕はないのだ。
「わからないなら自分で勉強しろよ」
そのうちにおじさんはこう思う。「いや、俺はお前たちの仕事についてよく知らないんだ。だから教えろよ。なんで教えてくれないんだ」。これは最悪である。それを聞く社員たちの気持ちは「わからないなら自分で勉強しろよ」「なんであんたに教えなきゃならないんだよ」である。
当たり前の話だが、ベンチャーの社員は社長の方にしか顔を向けていない。突然やってきて業務内容も何も知らずに「態度だけでかい」おじさんの存在など迷惑以外の何物でもない。ましてやおじさんに教えるなんてまっぴらごめんなのだ。
社員にそっぽを向かれたおじさんが行きつくところは、友達である社長だ。「お前のやりかたでは会社はうまくいかなくなるぜ」「なんだ。あの社員たちは。大丈夫なのか」と友達言葉で語り出す。こうした状態になると社長の胸の内では「しまった。こんなやつ採るんじゃなかった。友情を仕事に持ち込んだのは失敗だった」となる。
そして、言うことを聞いてもらえないおじさんはそのうち社内で経営批判をするようになる。おじさんは会社評論だけは得意だ。サラリーマン時代から居酒屋で特訓されてきたからだ。ただ、ベンチャーが違うのは、あっというまに降格、へたをするとクビになることだ。社長との友情も壊れ、会社を追い出されるのがおじさんの末路である。