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《密着スクープ連載》大船渡佐々木の登板回避 4回戦で194球を投げさせた國保監督の「迷い」

”令和の怪物”はなぜ甲子園に行けなかったのか #2

2019/08/19

source : 週刊文春デジタル

genre : エンタメ, スポーツ, 社会, 教育

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 夏の岩手大会開幕直前となる7月6日と7日、大船渡は練習試合を行い、佐々木もマウンドに上がった。連投となった盛岡一との試合では20三振を奪って完投。150キロ台のストレートを連発し、左打者にはチェンジアップ、右打者にはフォークボールと、落ちるボールを有効に使っていた。さらに、報道陣には公言していない、ツーシームやカットボールのような直球系のボールも多投していた。

なぜか練習試合に佐々木が連投

 意外だったのは、あれほど投球過多に敏感だった國保監督が、佐々木に連投を命じ、さらに2戦目は完投させたことだ。それは6日間で4試合を戦う岩手大会終盤の連戦を想定した試験的登板に違いなかった。夏の岩手を制す準備は整ったように見えた。

 14対0と大勝した7月16日の岩手大会初戦・遠野緑峰戦で佐々木は2回を投げただけで降板し、続く一戸戦にも先発。6回参考記録ながら、ノーヒットノーランを記録し、被安打0のまま最初の山場となる第2シード・盛岡四との4回戦(7月21日)に臨んだ。

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 先発した佐々木は公式戦における自己最速となる160キロをマークし、延長12回までに奪った三振の数は21。令和の怪物の称号に相応しい内容で、國保監督は球数が194球に達するまで佐々木をマウンドに送り続けた。

盛岡四戦で大船渡の佐々木がマークした160キロを表示するスコアボード ©共同通信社

 そして、試合を決めたのも佐々木だった。12回表に、右打者の佐々木にとっては逆方向となる右翼席に弾丸ライナーで飛び込む2点本塁打を放ち、そのリードを守り切った。試合終了の瞬間、佐々木の目には涙があふれていた。

 試合後の取材では、疲労困憊の佐々木を考慮し、パイプ椅子が用意されていたが、佐々木は「立って話した方が良いです」と笑い、会見は始まった。

「負けたら終わりというプレッシャーはあった。これからは連戦になる。チーム全員で戦っていけば、勝つことができると思います。この仲間と野球ができるのは、この夏が最後。その喜びを噛みしめながら、プレーしていました。160キロ? 自分ではそこまで速いとは思わなかったですし、質の良いボールではなかったです」

 160キロを打席で体感した盛岡四の岸田直樹は清々しい表情で振り返った。

「160キロの次のボールは、140キロのフォークでした。直球かなと思った瞬間、ボールが視界から消えた(結果は三振)。高校生が打てるボールではありません」