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FBで意見が変わりやすい有権者を特定、誘導……途上国で「心理実験」を繰り返した企業は選挙を変貌させた

日本も無関係ではない?

2019/08/26
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意見が変わりそうな「説得可能者」をFBで特定、誘導

 告発者によると、まずケンブリッジ大学の教授がFacebookで性格診断アプリを配信し、DLしたアカウントと、その友達の合計5千万人分のユーザーデータを抽出した。このデータを不正に買収したCA社は、住所や関心、人間関係などのデータを用いてユーザーそれぞれの性格プロファイリングを作成。

 ミシガンなどの激戦州において、意見が変わりそうな「説得可能者」のFacebookフィードにクリエイターが作ったブログや記事、ビデオや広告を配信、投票行動を誘導したという。

 たとえば、神経質なユーザーには「銃がなければ強盗に殺される」と恐怖を前面に出すコンテンツ、不安になりやすい者には「ISISの脅威」を煽る恐ろしいヴィジュアルを提供していく。いわば情報攻めだ。特に人気だったものは「ヒラリー・クリントンを投獄せよ」キャンペーンで、中には人々が列をなして彼女に暴行を加える映像もあった。

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トランプ大統領 ©Getty Images

 同選挙を勝ち抜いたトランプ陣営は590万ものFacebookビジュアル広告を打ったとされる。対するヒラリー陣営は6万6千個に過ぎない。

FBがデータを提供すればするほど広告主は喜んだ

 2019年、ユーザーデータ保護を怠ったと非難されたFacebook社は、米国連邦取引委員会より罰金50億ドルを命じられることとなった。アプリ開発業社がDLユーザーの友人情報まで簡単に要求できた頃のFacebookは、第三者に渡ったデータの追跡や管理をほぼ行なっていなかったと告発されている(のちに規則は変更)。

 FBがデータを提供すればするほど広告主は喜び、同社の広告価値は上がっていった。とある元Facebook従業員の告発者は、「ユーザー保護よりもデータ収集を優先したからこそFBは巨大化した」と証言している。

©iStock.com

「サイコグラフィック」手法の効果を疑問視する声も

 ドキュメンタリーでは絶大な影響力を持っていたかのように描写されたCA社だが、実際には「サイコグラフィック」手法の効果は検証されておらず、疑問視する声も挙がっている。

 たとえば、CA社がトランプ陣営に加勢する前に協働していたテッド・クルーズ陣営は、「CA社が想定した有権者の半分以上が他の候補者を支持した」としてCA社提供データの使用を打ち切っている。トランプ陣営においても、「心理学はほぼ使われていなかった」と関係者が証言している。かつて同社が誇った実績にしてもだいぶ誇張されているようだ。