Facebook社CEOマーク・ザッカーバーグが米国議会で証言したことを覚えているだろうか? あのときの彼はまるで晒し者だったが、悲愴な空気にはわけがあった。Facebookデータを駆使した「感情をハックする」アルゴリズムがアメリカ大統領選挙やブレグジットに影響を与えたと危惧されていたのだ。

米国下院エネルギー・商業委員会で証言するフェイスブックCEOマーク・ザッカーバーグ氏 ©Getty Images

 英米を揺るがしたこの問題は、ソーシャルメディアが普及する日本も決して蚊帳の外ではない。今年7月にリリースされたNetflixドキュメンタリー『グレート・ハック SNS史上最悪のスキャンダル』は、データ問題の恐怖を理解するには適切な作品だろう。

発展途上国で「心理実験」を繰り返す

『グレート・ハック』で焦点があてられる存在は、英国のデータ分析企業ケンブリッジ・アナリティカ(以下CA社)だ。軍事請負企業SCLを親会社に持つCA社は、戦争における心理操作術を2016年米国大統領選挙や、ブレグジットのEU離脱是非を問う国民投票に適用したとされる。

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「フルサービスのプロパガンダ製造機」と呼ばれ、「トランプ政権とブレグジットの生みの親」かのように喧伝されることとなったCA社の内部告発者たちは、同社が有権者を操るのに使った驚きの手法を語っていく。

 

 たとえば、2013年にCA社はインド系と黒人系の二大政党がぶつかるトリニダード・トバゴ共和国において前者に協力。「若者を政治に無関心にさせる計画」として、投票放棄を掲げる「Do So!」運動をSNS上で流行させた。

 これにより、投票に行かない黒人の若者が続出。一方、インド系の子どもたちは親の言いつけを守る傾向にあったため、運動は楽しんでも投票所には行ったようだ。18〜35歳のインド系と黒人の投票率の差は40%となり、全体6%差でインド系政党が勝利している(同国の首相はCA社との協力を否定)。

 発展途上国で「心理実験」を繰り返したCA社は、英米の選挙に舞台を移す。彼らが2016年米国大統領選挙で押した戦略が、性格プロファイリング「サイコグラフィック」だ。