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「すみません、上司からの指示で破棄しました」

「当時の東京都教育庁の懲戒規則では、いじめの放置等で被害が大きい場合には停職か免職でしたが、いじめを認めていませんから、担任も処分はありません。区教委からの謝罪は当然と考えていましたが、卒業後、区教委にたずねたら、『いじめはなかったことになっている』と言われ驚き、相談記録を自己情報開示請求しました。SCへの相談記録は卒業と同時に破棄されていました。

 SCの聞き取りメモは残っていることを確認していましたが、開示請求する直前にSCより『すみません、上司からの指示で破棄しました』と電話がありました」

 一部は開示されたが、SCへの相談種別が「その他」になっていたことが判明した。都教委に問い合わせをすると、いじめと不登校の相談の場合は「その他」ではなく、どちらかにチェックを入れることになっている。母親が相談したことは書いてあるが、内容は書かれていなかった。

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区が開示した資料の一部 ©渋井哲也

 区教委とのやりとりも「口頭でやりとりをしているので記録がない」との言い分だった。母親は「担当者はちゃんとノートにとっていました。少なくとも3回以上、3人が、それぞれ数ページにわたり必死に記録をとっていました」と言うが、重大事態に至る経緯を記録したノートでも「個人的備忘録」扱いとされたため、保存されていない。

 区教委の資料では、Aくんが不登校になった年に、同じく不登校になった児童が計6人とあった。その中にいじめが原因というのは1人。母親は、「うちの子は、この“1人”に該当するのか?」と問い合わせると、区教委は「違う」と回答した。

「うちの子じゃないとすると、不思議でした。SCには、いじめの相談をしていたわけですから。ただ、不登校になる前の担任とSCとの懇談で、SCは『お母さんと先生の言い分が違いますけど』というだけで話し合いになりませんでした。子どもはいじめによってダメージを受けていました。いじめを認め、『全面的に支援します』などと言ってくれればよかったんです」

©iStock.com

Aくんは「気持ちはまだ語れない」

 私は、ライターとしていじめや自殺について取材してきた。いじめの有無は、学校と当事者間で見解が分かれることがある。現在でも調査委員会が設置されても同じだ。しかし、不登校や自傷行為、自殺未遂、自殺などという結果になったからこそ、当事者や家族・遺族は真実を知りたい。せめて、やりとりの記録を保存していれば、後からでも検証が可能だ。特に口頭のやりとりを「個人的備忘録」扱いせず、保存すべき資料として扱うべきだ。

 こうした話は、このケースに限った話ではない。アンケートが破棄されたり、いじめの訴えを書いた手紙さえなかったことにされる。これらは個別の問題ではなく、社会問題だ。

 今回、母親を通じて、Aくんにコメントをもらおうとしたが、自分のことや気持ちはまだ語れないとのことだった。それだけ、いじめ自体や、不適切な学校対応による後遺症は重い。