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もうひとつ重要な「朝ドラ感」とは?

 さらにもうひとつ重要な「朝ドラ感」がある。「日本人共通の喪失感」である。これまでの朝ドラは主人公が戦争体験をするものが多かった。一時期朝ドラが低迷していたときは、戦争の記憶を思い出したくないという声があった頃で、時を経て、戦争から距離を置いて喪失感の物語として受け止めることができるようになったことも朝ドラ低迷脱出の要因のひとつであると、前述の「みんなの朝ドラ」でドラマ部長(16年時点)の声を掲載した。

今作『なつぞら』で、100作目を迎えているNHKの連続テレビドラマ小説 ©時事通信社

『朝顔』では「戦争」ではなく「東日本大震災」を描いた。震災が起こった11年から数年の間は、ドラマとして描くことも見ることにも遠慮があったが、8年経過したいま、未だ傷が癒えない方々もいるとはいえ、当事者でない者たちの記憶が徐々に薄れてしまうことへの警鐘も必要になってきた状況に伴い、震災を描く作品も増えてきた。朝顔の母はいまだに見つかっていず、父は現地に通い探し続け、朝顔は震災直前、「あとを頼むね」と言って別れた母のことが忘れられず、現地に足を向けることができない。8月26日放送の7話では震災のときの母の状況が少しだけわかった。

朝ドラではできなかった、事件が起こる「よるの朝ドラ」

 いま、景気が悪く先が見えず元気のない日本人は、みんなで共通の哀しみを分かち合い、それでも明日に向かって生きていく希望がほしい。まるで、戦争、高度成長期を経て、明るい明日に向かって主婦が「朝ドラ」を見ていたように。朝ドラブームが頂点を極めた『あまちゃん』が東日本大震災の復興の祈りであったように。そんな気分に寄り添ったのが『監察医 朝顔』なのである。哀しみを抱えながらも強く生きている朝顔を演じる上野樹里と、彼女の代わりに自分が泣くような自己犠牲心たっぷりの夫を演じる風間俊介がいまの日本の気持ちを映し出している。

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原作は漫画 木村 直巳 (絵), 香川 まさひと (作), 佐藤 喜宣 (監修)

 以前、NHKのドラマ部長(16年当時)にインタビューしたとき、「主人公のお父さんが警察官で日夜事件が起きている朝ドラはいかがでしょうか」と聞いたら「月曜日に殺人事件が起きて『誰が犯人なんだろう』と思いながら土曜日まで過ごす時間はかなり長いと思います(笑)」と言われたことがあって、本家でやらなかった日々事件の起こる「よるの朝ドラ」を月9はやってのけたといえるだろう。90年~00年代、日本の女性の欲望の写し鏡が朝ドラではなく月9であった、その時代を取り返すかのような快挙である。なんたって、主人公、その父、夫が公私ともに団結、家族で事件の真相を探るところが新しい。