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 というのも、「そもそも論」で言えば、人質となったフリージャーナリストの後藤健二氏の妻が、英国のリスク・マネージメント会社に対応を相談していたことを良いことに、当時の外務省の領事局長らが身代金要求には一切応じないという政府方針を通告するだけで、後は傍観を決め込んでいるうちに、身代金目的の誘拐という「邦人保護」から、人質殺害通告という「国際テロ」へと、「最悪の事態」(官邸スタッフ)を招いたからである。しかも、事件後の検証報告では、後藤氏の妻がISとの交渉のやり取りをしたメール等の公表を拒否した為、報告書の原案作成を事実上担った外務省のシナリオ通り、自らの「不作為」には蓋をして、「人質対応には誤りはなかった」と結論付けた。いわば、「被告が裁判官となって判決を言い渡すようなもの」(治安当局幹部)となった。

「イスラム国」に捕らえられた後藤健二氏 ©AFLO

 また肝心の国際テロ情報収集ユニット自体、トップの国際情報統括官には外務官僚が座るものの、他は警察庁、防衛省、内調からの出向組で構成されており、「外交官の肩書で、どこの国の情報機関や軍が対応してくれるのか。インテリジェンスのイロハもわかっていない」(自衛隊幹部)。正に安全保障で言う、実力行使が伴う武力紛争が生じる「重要影響事態」である。

日本を「サイバーセキュリティ後進国」へと貶めた背景

 更に深刻なのが、2015年サイバー攻撃を受け、約125万件の個人情報が流出した特殊法人・日本年金機構問題で露見したサイバー対策の司令塔なき「存立危機事態」である。政府の一機関への攻撃で、国全体の安全が脅かされようとしているのである。

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厚生労働省 ©文藝春秋

 とりわけ、これも官邸インテリジェンス強化策の名のもとに新設された内閣情報通信政策監ポストに連動して、衣替えしたはずの内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)が、今やサイバー空間が、テロから戦争へという時代にあって、不正アクセスを監視する程度の権限と人員しかない。この為、サイバーテロと不正アクセスの「グレーゾーン」までもが手付かずのまま。国際社会からは周回遅れの「サイバーセキュリティ後進国」へと貶めた背景には、安全保障、治安重視のサイバー規制強化派の警察庁・防衛省の「力の省庁」と、IT成長戦略上、規制に反対する旧郵政省を中心とする総務省・経済産業省等の「政策官庁」との綱引きが繰り返されてきた、安倍内閣の官邸インテリジェンスの「崩壊連鎖」がある。