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西武ザック・ニールはなぜ“優良外国人“へと変貌したのか?――日本とアメリカの“違い”を考える

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/09/03

アメリカでは中4日、日本では中6日 登板間隔の違いという障壁

 アメリカでは中4日、日本では中6日という登板間隔の違いも先発投手にとって障壁になる。

「アメリカでは次の登板までに何をしようかと、考える前に投げていた。日本では次の登板まで状態をシャープに維持しておくために、何をすべきか考えなければならない。そのルーティンを見つけるのに少し時間が必要だった」

 アメリカで中4日の場合、「ノースロー、ブルペン、ノースロー×2日」で次の登板に臨むのが一般的だ。対して中6日の日本では、登板した2日後に休むケースが多い。

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 ニールは日本流を踏襲したが、2軍降格以降、先発翌日に休むようにした。

「先発した次の日に休むことで、次の登板までに5日続けて投げることができる。マウンドにもう1回多く行けるのは、メカニクス(投球動作における身体の使い方)とタイミングを調整できる点で大きい。俺のピッチングはその二つに支えられているからね。ブルペンでドリル(決まったメニュー)をやらなければ、それらが簡単に失われてしまう」

 現在、火曜の先発を任されるニールは1週間を以下のようにすごしている。

火:先発
水:オフ(六本木で友人と会うなど)
木:軽くキャッチボール
金:遠投
土:ブルペンでメカニクスのメニュー
日:ブルペン
月:軽くキャッチボール

 メカニクスやトレーニングの最新方法は、日本よりアメリカのほうが進んでいる。例えばニールが取り入れているメカニクスのメニューの一つに、「コア・ベロシティ・ベルト」(Core Velocity Belt)がある。

「ドジャースで去年やっていたんだ。腰に伸縮性のあるロープのようなものを巻き、軸足で立った状態でマウンドの下から引っ張ってもらう。そのときに俺はバランスを保たなければならない。そのドリルがとても役立っている」

 コア・ベロシティ・ベルトはアメリカで広まりつつあり、ニールはソフトバンク、日本ハム、楽天のトレーニングルームを借りた際に見かけたという(トレーニングに興味のある人はYouTubeなどで「Core Velocity Belt」で検索を)。

 ニールはアメリカから継続するトレーニングを行いつつ、日本人コーチにも積極的に助言を求めた。謙虚かつ貪欲な姿勢で、メカニクスを改良した。

ニールがチームにもたらしている勝ち星以上のもの

 グラウンドボーラーのニールにとって、近年フライボール革命が全盛のアメリカ球界は、決して過ごしやすい場所ではなかった。

「バレル(打球角度30前後、時速158km以上の打球スピードで打つこと)への対策を考えないといけないから、攻め方が変わってくるんだ」

 思うように活躍できないまま30歳となり、一念発起して妻と来日すると「日出ずる国」で花開いた。

「日本でプレーしたことのある友人たちから、日本の文化や野球を経験するのがどんな財産になるのか聞いていた。素晴らしいファンがいると聞き、日本でプレーすることが夢だった。実際にそういう機会を得て、本当にエキサイティングな毎日を送っているよ」

 ニールのように、異国で人生が開ける者がいる。逆に、異なる環境にうまく馴染めず、持てる能力を発揮できずに去る者も少なくない。

 筆者はサッカーの中村俊輔を追って25歳から4年間スコットランドに住んだが、外国で暮らすのは決して容易ではない。渡英当初は英語がほぼできず、マンションを借りるのさえ大変だった。

 しかし徐々に慣れ、現地の友人ができて以降、未知の発見の連続である毎日がエキサイティングになった。英国生活無くして、スポーツライターとしての礎を築くことはできなかった。

 西武に限らず、各球団が外国人選手を獲得する場合、日本人とは異なる能力を評価して迎える場合がほとんどだろう。外国人選手が「郷に入れば郷に従う」のは必要な一方、受け入れる側は、異国に来る者たちをもう少し理解しようと努力すべきだ。たとえ能力があっても、異なる環境に適応するには一定の時間がかかる。4月や5月で「ダメ外人」のレッテルを貼るのは、球団にとって巨額の投資をドブに捨てるのと同じである。

 6月中旬以降、誰もが「ナイスガイ」と言うニールがもたらしているのは勝ち星だけではない。英語でコミュニケーションをとり、笑顔になる報道陣がたくさんいる。ニールが使うコア・ベロシティ・ベルトに興味を持ち、話をしている投手はどれほどいるだろうか。菊池雄星が親友のブライアン・ウルフから多くを学んだように、西武の投手陣にとって成長のチャンスが転がっている。

 ニールの勝利に喜ぶ者たちは、積み重ねているゴロアウトの背景にも目を向けてほしい。彼が西武や日本球界にもたらしているものは、とても大きな価値があるから――。

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