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田中広輔も育てた……カープ内野陣を支える玉木朋孝コーチの“ノック哲学”

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/09/15
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足を使った守備の典型例が田中広輔である

 ただ、彼の指導はやみくもなものではない。「キャンプから夏にかけては、前に出る打球を多くして、下半身を作っておきます。そうしないと夏を乗り切ることはできません。夏場は、やたらに前後左右には振りませんね」。

 その典型例が、田中広輔である。今シーズンこそ、右膝の故障などで苦しんだが、カープのリーグ3連覇は、不動のショートストップとともにあったのだ。

「コーチとして一軍で3年間、練習から意識しながらやってきました。足を動かすことはもちろん、エラーを減らすために逆シングルの練習もしました。足を使う。球を怖がらない。基本ができているうえに、高い意識がありました」

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 キャンプからノックに強弱をつけ、容赦なく左右にも振る。田中はことごとく足を使ってボールの正面に入る。夏場には、左右は控えても、正面の弱い打球で前進させ、的確にフットワークを意識させた。だからこそ、3連覇の間、田中は1イニングも欠かさずフィールドに立ち続けることができたのである。2018年のゴールデングラブ賞は、その高い意識と妥協なき取り組みの結晶だったのである。

田中広輔と玉木朋孝コーチ

 9月、大野練習場では玉木が熱いノックを放っていた。智辯和歌山の大砲・林晃汰が、投手出身らしい強肩を持つ中神拓都が、167センチのガッツマン羽月隆太郎が大きな声を出しながらノックを受けている。

「打球を怖がることも少なく、スローイングも成長しています。とにかく、積み重ねて欲しいです。そして、状況判断を含めた応用編も学んでいって欲しいです」

 一方、目と鼻の先では8月末に右膝の手術を受けた田中がリハビリを開始した。少し時間は要するかもしれないが、背番号2の守備は、伸び盛りの若ゴイには最高のお手本となるだろう。そして、その間も、若手選手は泥だらけになりながらノックを受け続ける。

 現役12年で通算出場は120試合、決してレギュラーにはなれなかったかもしれないが、玉木は休むことなく94センチのノックバットを握り続ける。その打球音は、プロ野球の季節の移ろいとカープの歴史を刻むメトロノームのようである。

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