2015年に公開されたウィル・スミス主演のアメリカ映画『コンカッション』。

 ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)で活躍した選手が、引退後に不可解な行動を繰り返した末に50歳で謎の死を遂げる。その背景に、現役時代のプレー中に受けていた頭部への衝撃が原因で、CTE(慢性外傷性脳症)という病態に陥っていた――という結論を導き出した病理医の足跡をたどったノンフィクション映画だ。

映画『コンカッション』(DVDジャケット)

 タイトルの「コンカッション」とは、日本語で「脳震盪(のうしんとう)」のこと。よく耳にする疾患名だが、その詳細を正しく知っている人は意外に少ない。

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 そして、この映画の公開をきっかけに、脳震盪に強い不安を持つ患者が増えているという。

 そもそも、脳震盪とはどんな病態をさす言葉なのか。

脳がブルブルと揺れて、“びっくりした状態”に

「脳震盪は正式な疾患名。定義は、CTやMRIなどの画像診断では異常が見られないことを前提として、吐き気や嘔吐、頭痛、めまい、一時的な意識の喪失などの症状が見られる外傷性の病態――となります」

朝本俊司医師

 と語るのは、東京都大田区にある牧田総合病院脳神経外科部長の朝本俊司医師。さらに詳しく解説してもらう。

「頭蓋骨の内部には脳脊髄液という液体が満たされていて、脳はその液体の中でぷかぷか浮いている。そこに強い外傷が加わることで、脳に振動が加わってブルブルと揺れる。これが脳震盪です。私が患者さんに説明する時によく使う表現は、“脳がびっくりした状態”。びっくりすれば普通ではいられなくなるので、吐き気やめまいなどの症状が出るのです」

多くは安静にしていれば24時間以内に治まる

 脳震盪と診断が下りれば基本的に入院の必要はなく、症状が消えるまで安静にするだけでいい。特に投薬なども行わない。まれに発症から48時間程度まで症状が長引くこともあるが、多くは24時間以内に治まるという。

「医療機関を受診して、丁寧な問診と画像診断の上で、医師から『脳震盪です』と診断されたら、とりあえず安心して大丈夫です」

©iStock.com

 そう語る朝本医師は、脳神経外科医として30年以上臨床にあたってきて、脳震盪で命を落とした患者は1人も診たことはないという。

 ただし、似た状況でも重篤な病態がある。「脳挫傷」だ。