「実はバルザックは好きじゃないんです。ロマン派系の私の絵柄は、シビアなバルザックのイメージに合わないと思いましたが、自分の感性で全力で描きました」
漫画家デビュー50周年を迎えた木原敏江さんの描き下ろしイラストで贈る豪華絵本『バルザック 三つの恋の物語』(安達正勝訳)が刊行された。フランスを代表する作家・バルザックの恋をテーマにした傑作短編「リストメール侯爵夫人」「ロジーナ」「ジュリエット」の3作を収録。物語の世界を見事に視覚化し、華麗なフランス貴族の文化が美しく表現されている。
「挿絵を描いたのは初めて。本文だけでは情報量が足りなくて、登場人物の顔立ちや衣服など頭を抱えながら想像し、細部にまでこだわりました」
バルザック作品の中でも日本ではあまり知られていない3編。フランス革命を舞台にした自身の作品『杖と翼』での取材や資料を生かし、バルザックの生きた時代をできるだけ忠実に再現した。
「バルザックの作品は、私の漫画では絶対に出てこない人ばかり。『リストメール侯爵夫人』なんて、フラれた腹いせで書いた作品なのでしょう(笑)。漫画家としてどれだけ自分の中に蓄積されたものがあるのかが問われた作品です」