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 一方で、同じ対談では、『ワイドナショー』でニュースなどについてコメントすることを《あれはまあ、大喜利ですからね》と話している。同番組にゲスト出演したビートたけしからは「コメントなんて芯食ったらだめ、チップしといたらいいんだよ」と野球のバッティングになぞらえて言われたが、松本は《それを聞いた時に、僕はたけしさんと同じことをやってはいけないので、だったらブン回しでいこうって。だからたまに、思いっきり当たってすごく炎上したりするんですけど》、《たけしさんはそれ許されても、僕がそれやったら「あいつ逃げてる」って言われるんですよ》と自らの信条を明かした。

「ブン回しでいく」という言葉に、『週刊朝日』の連載での《いい感じの手を抜く方法をオレは知らないのだ。速球しか投げられないのが、最大の悩みである》、《肩がつぶれるまで投げ続けるしか方法がないのだ》というくだりを思い出した。これは、連載中、担当編集者から「そんなに濃い内容ばかりでなくていいですよ」などと言われたことに対する返答だ。

今年語った「僕はやめたいって何年も前から、ずっと思ってる」

 考えてみると、松本が嫌う「漫才さえしてたら芸人の頂点みたいに思ってる」お笑いマニアが増えたのも、彼がコメントをはぐらかしたりすると「逃げてる」と言われてしまうのも、元はといえば、松本がお笑いにおいて常に攻めのスタイルを貫いてきたからこそではないか。もちろん、『ワイドナショー』のコメントを大喜利ととらえているあたり、本人はその姿勢を崩しているつもりはないのだが、何も知らない人からすれば、松本が後退したように見えてしまうのだろう。

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 そうした世間との齟齬のせいなのかどうか、松本は最近になって再び引退を口にするようになった。『文藝春秋』2019年3月号で笑福亭鶴瓶と対談した際には、鶴瓶に《いつやめますか?》と訊ねたうえで、《若い頃は上が邪魔でしょうがなかったけど、僕らぐらいになってくると、上が頑張ってくれてることが目標になるから。特に僕は、やめたいって何年も前から、ずっと思ってるし》と語っていた。

2000年から2006年まで放送されたトーク番組『松紳』

 ひょっとすると、松本には、お笑い界に入るきっかけをつくった吉本の先輩の島田紳助が2011年に引退したことも、意識するところがあるのかもしれない。しかし紳助は引退時、すでに漫才から退いて久しかった(そもそも彼が漫才をやめたのはダウンタウンの存在もあった)。これに対し、松本はまだネタをやることから撤退したわけではない。先の対談で鶴瓶から、いずれ一緒に何かしないかと持ちかけられたときも、《やりたいとは思ってます》と答えていた。この言葉に期待をふくらませるファンはきっと日本中にたくさんいるはずだ。

※1 「ザテレビジョン」2019年7月21日配信
※2 伊藤愛子『ダウンタウンの理由。』(集英社、1997年)