「文藝春秋」9月号の特選記事を公開します。(初公開 2019年8月23日)

その私立高校のホームページを開くと、笑顔を向ける男性美術教師の写真がある。

 田村千尋さん(仮名、28)は一瞥して「気持ち悪い」と口にし、目を背けた。

 彼女は高校生だった約10年前、当時30代後半だったこの教師から、下半身を触られるなどの性被害を継続的に受けていた。信頼していた教師から突然下着に手を入れられた際、混乱と恐怖で抵抗できなかったのが始まりだった。

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言いなりになった自分を責め、うつ病に

「絵を描く資料にする」という理由で裸にされ、緊縛されて写真を撮られてもいる。後に、「写真は口止めの意味もありますよ」と言われた。

 田村さんは言いなりになった自分を責め、卒業後にうつ病になった。その教師は今も教壇に立っている。他の女子生徒とも性的接触があったようだ。田村さんは言う。

「すべてをぶちまけてやりたいと何度も考えました。でも、そのたびにリベンジポルノ的に写真を流出させられるかもしれないとよぎって怖くなるんです」

©iStock.com

 文部科学省によると、平成29年度に性的行為などで懲戒処分された公立小中高校などの教員は、210人。このように明るみに出るのは氷山の一角であり、さらに公的調査がない私立学校はこの数字に含まれておらず、実態も不明だ。

部活の顧問から毎日のように呼び出されて……

 こうした事案は、教師による児童生徒へのセクシュアル・ハラスメント、「スクールセクハラ」と総称される。スクールセクハラの被害者の苦しみは、被害の渦中にある時だけでなく、成人してからも長く続く。

 公立高校で被害に遭った小野香織さん(仮名、52)は、部活動の顧問だった男性教師を「鬼畜やね」と言い捨て、当時をこう振り返る。

「普通の真面目な高校生だったのに、毎日のように呼び出されては、体育倉庫のマットの上などで“処理”させられました」