「やばいかもしれない」東大合格発表の日
――『高校生クイズ』で優勝したあとは、東大受験が待っています。
田村 終わってからは『高校生クイズ』に費やした夏の遅れを取り戻そうと勉強をしていました。開成だと有名な「100傑」という言葉があって、学年400人いるうち100位以内の成績を取っていれば、東大に合格できる確率が高い、というものなんですけど。
――すごい基準ですね。
田村 それがあったおかげで、夏の模試を受けていなくても自分の実力をある程度測ることはできていたんですね。だから、自分にはいま何がどれくらい足りないのかを見極めながら、ある程度の方向性を定めて順調に勉強は進められていました。ですがその一方で、もし東大に落ちてしまったら「あの高校生クイズで優勝してた人、落ちたらしいよ」と世間に言われるのかもしれない、という怯えのようなものが常にありました。
――じゃあ合格発表の日も相当緊張されました?
田村 色々あって、大学受験の様子もテレビに取材されることになったんです。当時はまだ東大のキャンパスに張り出された掲示板に合格者の番号を見に行くスタイルだったんですが、カメラを持った方と一緒に東大まで向かうことになるわけです。でも、テレビ局の人たちは番組の内容を上手くコントロールしたいはずだから、誰かが先回りして事前に僕の番号があるか確かめているはずだと思ったんですよね。だから東大までの道中は撮影クルーの方の顔色を窺っていたんですが、その人の顔がすごく険しかったので「やばいかもしれない」と思いました。
――わざとじゃないですか?(笑)
田村 僕をドキドキさせようとしていたんだと思います。そういう深読みもできたけれど、いずれにせよすごく怖かった。なので、自分の番号を見つけた時にはいままでにはないくらいテンションが上がって、「あった! あった!」って撮影クルーの人にも「僕の番号ってあれですよね!?」と確認したりしていました。せっかくなので、ラグビー部やアメフト部の方々に胴上げもしてもらいました(笑)。
「クイズ」と「哲学」で共通する魅力
――東大では何を専攻されていたんですか?
田村 もともとSFとかロボットとかアニメが好きだったのもあって、工学系に進んでロボットを作ったりできたら面白いかなと考えていたんです。でも色んな本を読んでいるうちに、哲学をやる方が面白いんじゃないかなと思うようになって。理系でしたが哲学を専攻することにしました。
――哲学にハマったきっかけはなんでしょう?
田村 哲学の本を読んで、そこで色んな哲学者の考え方を吸収すると日常の出来事が昨日とは全く違う意味を持っているように見えてくる、そういう体験をできたのが大きかったですね。「これって、自分が面白いと思っているものをもっと面白いやり方で観たり・聞いたりするための最高のツールなんじゃないか」と思ったんですよ。
振り返ってみると、僕がクイズに惹かれたのも同じような理由だったんじゃないかと思っています。クイズを突き詰めていくと、覚えているものを引っ張り出してきて終わり、じゃなくて、ボタンを押してクイズに答えるまでのあの数秒間の中に、自分の頭の中にバラバラに蓄積された知識をつなぎ合わせて答えを導くようなプロセスがあるんです。だからパッと聞いて知らない問題でも、知っている知識を組み合わせることによって答えを導き出すことができる。そういう瞬間に僕は魅力を感じていたんですよね。
それは、哲学も似ていて、色んな人が色んなテーマについて考えてきたことを自分の中にインストールして、それまで知っていたものとどんどんつなぎ合わせていくことで、新しい知を獲得するような営みなんです。だから哲学を勉強した自分は、昨日の自分とは違う見方や考え方で世界を見ることができるようになる。僕がクイズに感じていた魅力は何だったのか? という問いに対する答えが、哲学だったんですよね。