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「僕の中からクイズが消えたことはないです」

――いまは東京大学の大学院博士課程で、モーリス・メルロ゠ポンティ(フランスの哲学者)を研究されています。

田村 修士論文が評価されてありがたいことに、東大の一高記念賞という賞もいただきました。これから、できれば2、3年で博士論文を書いて、その後も哲学の研究にずっと携わっていければいいなと思っています。

東京大学の一高記念賞

――その過程で田村さんはクイズから少しずつ離れていったように感じます。

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田村 競技クイズを続けていくのってかなり大変なんですよね。大学に入ってから興味を持って取り組んでいたことと両立するのが少し難しかったというのがあります。ただ、他にもいくつか理由があるなと思っていて。いま振り返ると、開成のクイズ研究部の雰囲気が僕は大好きだったみたいです(笑)。まだクイズ研究部が誰にも注目されてない時代に、中学生から高校生まで、5、6人がゆるゆる放課後に集まって「クイズやろっか」って始める感じ。他の人の目を気にすることなく、それぞれがやりたいことをやって、のびのびクイズを楽しみながら、時に真剣勝負もする開成高校クイズ研究部だからこそ僕はクイズを好きになれた気がします。そういう意味で、僕は「部活動」そのものにはあまり向いてなかったのかもしれない(笑)。

――その一方で『高校生クイズ』で優勝したクイズの実力が発揮されなくなっていくのはクイズファンも寂しく感じると思います。

田村 そう思っていただけるのはありがたいことです。クイズからすこし離れたって言うと「『高校生クイズ』で優勝もしたのにもったいない!」とか「ここまで積み上げたものを捨てて、別のことをやるの?」と言われることもあるんですが、僕の中からクイズが消えたことはないです。むしろクイズに出会わなければ、いまの自分は絶対にないと思っています。

 

――クイズは田村さんにどんなことを教えてくれましたか?

田村 興味のないことに興味を持つことを教えてくれました。クイズで勝つために知識を増やしていくと、経験がともなわない字面だけの知識が溜まっていきますよね。「知っているだけでは意味がない」という意見も聞こえてきそうですが、実は何かについて「知っているだけ」の状態を作れることってとても贅沢なことで。どこかでふとその知識に関係するものを見た時、それまでの自分だったら興味がないからスルーしていたようなタイミングで、「あ、これクイズで聞いたことある!」って食い付ける。この世界で起こっていることへの興味の窓口が広がって、さらに知識が舞い込んでくるんです。知識は貯めれば貯めるほど利息がつくんですよ。

伊沢拓司という存在は「自分のif」

――『高校生クイズ』で同じチームで優勝を勝ち取った伊沢さんの最近のご活躍はどうご覧になっているんですか?

田村 いやー……、すごいですよね。身近にこんなに有名になっていく人が出てくるとは思ってませんでした。でも彼を見ていると、もう一つの人生の選択肢を見せられているような感覚になるんです。いわば“自分のif”ですかね。

――“自分のif”?

田村 伊沢と僕は『高校生クイズ』に出場して優勝したという点では一緒なんですが、彼は僕とは性格が真逆なんです。彼は人前に出るのを厭わないタイプ。もし自分が彼のような性格で、もっと人前に出たいと思っていたらどんな風になっていただろうか、と伊沢を見ているとたまに考えるんですよね。

 でも、伊沢が自分の選択をしっかりと引き受けて立派に活躍しているように、僕も自分で選んだ道で成果を残してやろうと思っています。

 

写真=橋本篤/文藝春秋

※【編集部注】9月13日13:30に一部修正しました。