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シンプルで奥が深い「しりとり」の世界(2)プロしりとらーは縛りがひとつでは物足りない!

2015/07/26

genre : エンタメ, 読書

note

その4 文章しりとり

 単語ではなく、文章でしりとりをする。「一文字ずつ増えてゆくしりとり」も、先に進んでゆくほどに結果的に同じものになってしまうのだが。

 お笑いコンビ・アンジャッシュのコントに、まさにこれをやるものがある。いじめられっ子が入試の面接で、全部しりとりで受け答えをするように強制されるというネタだ。

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「年はいくつですか?」「母さんが僕を産んでから15年です」
「家族構成を言ってください」「犬が一匹と……」
「特技は? 特技」「ギリシャ語です」「ギリシャ語はいつから?」「来週です」

 こんなふうに、ちぐはぐな会話になる。文脈が噛み合わないところが笑いを生む。このコントでは面接という設定上、「か」から始まる受け答えが多くなっている。フォーマットがかっちりしているぶんネタが作りやすいらしく、同じ設定で中身の会話パターンは異なるバリエーションを色々見かける。アドリブにも向いているようで、テレビ番組でさまぁ~ずを混じえての即興コントをしたときもこの設定を流用していた。

 アンジャッシュのコントは一方だけがしりとりで受け答えする形式だが、双方がしりとりで会話をし合うとさらにゲーム性が上がる。「面接」や「取り調べ」のようにシチュエーションを決めておくのもいい。

 この「文章しりとり」のポイントは、語尾のパターンが限られること。文章を完結させる語尾は意外と種類が少ないのだ。動詞で終わる場合はウ段の音、形容詞で終わる場合は「い」に、語尾のかたちが集中する。文体がですます調だと「す」、である調だと「る」に集中する。過去の助動詞「た」も、うっかりしているとそればっかりになる。なので、うまく続けていくためにはあまり言い切らずにだらだらと続いていくような文章のほうが適している。

突然警察に逮捕された
たった10円の駄菓子を盗んだ容疑で
でも私は決してやっていない
怒りのあまり机を殴った

 このように、しりとりでも破綻のない文章を作り出すことは意外と可能だ。しかし破綻もなくきれいに続いていっても面白くない。私は破綻を見て笑いたいのだ。なので途中で爆弾を放り込む。「接続詞カード」の出番だ。

「だが」「しかし」「つまり」「したがって」「ところで」「もしくは」「だって」などの接続詞をあらかじめ書き込んだカードを用意しておいて、三つごととか五つごとといった節目で引くのである。「接続詞カード」という名称だが、「言うまでもなく」「当然ながら」「すぐに」「いつの間にか」などの副詞も紛れている。ここで何を引くかでその先の展開がまったく変わる。たとえば、「怒りのあまり机を殴った」あとに「ところで」が来てしまったらどうなるだろう。

突然警察に逮捕された
たった10円の駄菓子を盗んだ容疑で
でも私は決してやっていない
怒りのあまり机を殴った
ところで
タツノオトシゴはオスが子育てをするらしい

 接続詞に引っ張られて、こんなふうに話題ががらりと変わってしまう。怒りはどこにいってしまったんだ。無実の罪の行方はどこに行った。いや、そんな無粋なことを言ってはいけない。「ところで」が出て来た以上、話題は転換するしかないのだ。そういうものなのだ。

突然警察に逮捕された
たった10円の駄菓子を盗んだ容疑で
でも私は決してやっていない
怒りのあまり机を殴った
ところで
タツノオトシゴはオスが子育てをするらしい
今まで知らなかったが
外国の論文をあたると
とてもたくさんの報告があって

 そしてここまで来て、また別の爆弾を放り込む。特定の文字が語尾に来た場合、「既成の文章の引用」が発動する仕組みになっていたのだ。この場合はトリガーは「て」だ。「て」という語尾に反応して、「鉄拳制裁も辞さない」が自動的に挿入される。そして次の人は、そこからまたしりとりを始めなくてはいけない(この場合は「て」のまま変わらないので便利)。

突然警察に逮捕された
たった10円の駄菓子を盗んだ容疑で
でも私は決してやっていない
怒りのあまり机を殴った
ところで
タツノオトシゴはオスが子育てをするらしい
今まで知らなかったが
外国の論文をあたると
とてもたくさんの報告があって
鉄拳制裁も辞さない
天候次第では中止
してもおかしくない空模様
うっかり空を見ていたら
たまたま
LANケーブルが見つかったので
電源を確保して
鉄拳制裁も辞さない
天気予報をチェックして
鉄拳制裁も辞さない
テリヤキバーガーを一つ頼むと
いつの間にか
遠くまで来ていたことに気付く
靴もすっかりくたびれていて
鉄拳制裁も辞さない
展開がもうめちゃくちゃですね
寝ましょうかねもう

 まあここまで「て」が連発するともう、逆にわざとらしくなってしまうけれど。たぶんこれは、最初から鉄拳制裁をしたくてたまらない人が紛れ込んでます。まあそれは置いておいて、ゲームを面白くさせるには「偶然性」の要素が重要なわけです。神話でいえばトリックスターの役割を担うものが、ゲームの完成度を高めるために必須なんですな。

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