心臓780、肺366、肝臓334、腎臓12332、膵臓211、小腸6……。この数字が何を示すか分かるだろうか。これは現在国内で、それぞれの臓器の「提供」を希望している登録者の数。

 では、実際に移植される人はどの程度いるのか。2018年の1年間での死亡した人からの臓器提供の実数は97件、うち脳死下での臓器提供は68件に過ぎない。

法改正されても、提供数は「三ケタには届かない」

「脳死移植の領域で見る限り、日本は後進国。世界に大きく水をあけられている」

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市田隆文医師

 と話すのは、元順天堂大学教授で、現在は日本脳死肝移植適応評価委員会の委員長を務める市田隆文・湘南東部総合病院院長だ。

 臓器移植には大きく、死亡した人の体から臓器を移植する「死体移植」と、生きている人から臓器を移植する「生体移植」がある。このうち死体移植は、心臓が停止してから移植する「心臓死移植」と、脳死の段階で移植する「脳死移植」の2種類がある。

 日本では1997年に「臓器の移植に関する法律(臓器移植法)」が制定され、2010年の法改正で、本人の臓器提供の意思が不明であっても、家族が承諾すれば脳死下での臓器提供ができるようになった。これにより、それまで脳死下での臓器提供数は「たまに10件を超える年もあるが、ほぼ一ケタ」だったのが、「確実に二ケタ」には乗るようになった。しかし、それでも三ケタには届かない状況が続いている。冒頭に挙げた数字を見れば、まるで足りていない状況が理解できるだろう。

脳死判定に積極的になりにくい日本の医療現場

 脳死移植の数が伸びない理由はいくつか考えられる。市田医師がまず指摘するのが、「ドナー(臓器提供者)を出す側の病院にとってインセンティブが少ない」という点だ。

 臓器提供の意思表示をしている人が事故などで脳死判定を受け、家族も臓器提供を承諾すると、日本臓器移植ネットワーク(JOT)に連絡が行き、提供される臓器をどの患者に移植するのかが決まる。そしてドナーから摘出された臓器が全国のレシピエント(臓器を受け入れる患者)の元へと運ばれていく。

「脳死の判定は非常に煩雑な作業を伴いますが、それを行ってドナーを出しても、その病院にとっては、それに見合うだけの経営的な旨味はありません。まして日本では、かつての“和田移植”(1968年に行われた札幌医科大学での日本初の心臓移植にまつわる騒動。執刀した和田寿郎医師は脳死判定の曖昧さなどを問われ、殺人罪で刑事告発されている)の影響もあって、脳死判定に積極的になりにくい土壌もある」(市田医師=以下同)

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