質問の方向性や相槌の精度がブレると「んー」
このインタビューにおいて、ひとつ、心の中で決めていることがあった。
それは当時、彼を評する際に多くの媒体が使っていた「カメレオン俳優」という呼称や「ブレイク」という表現を使わないこと。
この日、早い時間から多数の取材を受ける中で、彼はきっと嫌というほど2つの単語をインタビュイーたちからぶつけられただろう。そして多分、そのことに飽きている。
中村倫也はとても頭がいい人だ。
こちらの問いがしっかりハマった時はとことん深い答えを返してくれるのだが、質問の方向性や相槌の精度がブレると「んー」と、(それで、本当に、大丈夫……?)というような空気が一瞬生まれる。それは苛立ちや不機嫌さとはまったく違う質のものだが、穏やかである分、よりこちらに突き刺さる。時に、試されてる? とも思う。いや、多分試されているのだ。どれだけの深度で取材者として彼と向き合えているのかを。
「実力、ある人、たくさんいますよ」過去の出演作を振り返る中で中村は言った。その言葉に、今の自分を取り巻く“熱”と、それを半分冷静に受け取る彼の姿が見えた気がした。
取材が終わって外に出る。雪が降りそうな寒さだ。私の問いはあれで良かったのだろうか。最後は確か、ドラゴンボールの話で終わった気がする。
「いつも、穏やかで優しい」からこそ難しい、安良城ゴンという役柄
2019年の中村倫也は、現状、地上波だけで3本のドラマに出演。『東野圭吾 手紙』、1月期の『初めて恋をした日に読む話』、そして夏ドラマの中でもF1、F2層から多大な支持を集めている『凪のお暇』。
『凪のお暇』で中村が演じる安良城ゴンは、人生をリセットしようと立川のボロアパートに越してきた主人公・凪(黒木華)の隣人。周囲の女子たちに合いカギを渡しまくり、嫉妬でゾンビ化した美大生にペンで刺されても「ペンが折れなくて良かった。モルちゃんの商売道具でしょ」と、にっこり微笑むような人物である。
第8話、凪の実家の北海道で生まれて初めて嫉妬という感情に出会うまで、ゴンには感情の起伏がなかった。いつも穏やかで、いつでも、誰にでも優しい。彼に関わった女の子たちはその優しさをひとり占めできないことに病んでいく。こういう役柄を演じるのは俳優にとって“試練”でもある。はっきり喜怒哀楽を前に出すキャラクターの方が容易に演じられるからだ。まして、ドラマ内でゴンのバックボーンはほぼ描かれない。育った家庭も過去の職歴も子ども時代もなにもわからないまま、この役をあれだけ魅力的に立ち上げられたのは中村倫也が積み上げた役者力あってのことだと思う。