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『凪のお暇』の中村倫也と話してわかった ”カメレオン俳優ではできない”緻密すぎる役者力とは

「僕、全然、憑依型の役者じゃないですよ」

2019/09/20
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「カメレオン俳優」ではなく、「職人俳優」の中村倫也

 中村のデビューは2005年。じつは意外に早い。だが、しばらくは代表作にめぐり会えず、20代の中盤には腐った時期もあったという。そういうある種の挫折を乗り越えながら技術を磨き、近年のドラマだけでも“井筒劇場”と呼ばれた『ホリデイ ラブ』の激情パワハラ夫・井筒や、『闇金ウシジマくん Season3』の“洗脳くん”、『今日から俺は!!』の卑怯な不良・紅野、“そこにパイがあったから”の名言を残した『はじ恋』山下くん等の濃過ぎるキャラクターを経て、彼は出会った……安良城ゴンという圧倒的な当たり役に。

大ヒット映画となった『アラジン』では、オーディションの末にアラジンの吹き替えを担当 ©AFLO

 正直、ゴンを下手な俳優が演じたら、嘘くさくて恥ずかしくて見ていられなかったと思う。が、中村はこの難役をとんでもない説得力をもって演じきった。息を吸うように抱いていた凪を心から好きになり、今は手を握るだけで精一杯と語るゴン、初めて人を想い、震えながら告白をするゴン。ゴーヤを媒介に凪と出会った時とは目に宿る光の強ささえまったく違う。

「僕、全然、憑依型の役者じゃないですよ」

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 昨年末、彼が言った言葉をもう1度思い出す。そう、中村倫也は役になりきる、役が降りてくるといった“憑依型”のプレイヤーではない。つねにどこか冷静な自分を保ちながら、役との距離をはかり、相手役から投げられた演技のボールを完璧に受けて的確に返す、熟練の職人のような俳優なのだ。一見、ただ自然に演じているように見えるゴンも、じつは緻密なプランの上に成立させていると確信する。

 世に認められない悔しさを糧に技術を身に着け、ある年齢になってから“ブレイク”した俳優は強い。32歳、ここから中村倫也の時代が始まる。

『凪のお暇』の中村倫也と話してわかった ”カメレオン俳優ではできない”緻密すぎる役者力とは

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