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内田也哉子さんから届いたメール

(さあどうしたものか?)

 とスーツケースが出て来るのを待っていたら内田也哉子さんからメールが届いた。

 入院中の希林さんはしゃべることができず筆談だったらしいのだけれど、僕が病室にやってきた夢を見たそうで。それがお見舞いというよりもドヌーヴと彼女のシーンを撮るためのロケハンでこの病院が使えないかということだったらしく、病室に入ってくるとソファに横になって寝てしまったらしい。直接は会えなかったけれど、こうして夢で会えたのなら、やはり無理して帰国してよかったのだろう。僕が投函した手紙は希林さんが「読んでほしい」と言うので枕元で也哉子さんが読んでくれた。本人だけに伝えようと思っていたお別れの手紙だったので、ご家族の目に触れてしまうのは申し訳ないという気持ちと、それでも病室のその2人の様子を想像して、少し涙が出た。

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photo L. Champoussin ©3B-分福-Mi Movies-FR3

 ホテルに戻り風呂に入る。久しぶりにバスタブにつかる。風呂上がりに冷やしておいたレモネード。これがビールならサマになるのだが。ホテルから歩いて1分のところにあるBIOのスーパーで買った。美味しい。明日まとめ買いしておこう。この夜、シーズン1のラストがあまりに尻切れトンボだったのが気になって『プリズン・ブレイク2』の1話を観る。今回のイーサン・ホークはアメリカの脱獄モノのテレビドラマの「穴掘りスタン」役で人気の出始めた遅咲きの役者という設定。もう少し掘り下げていく必要がある役。

今年のヴェネチア国際映画祭で

 5月のカンヌ映画祭への参加を終えて(最高の結果であった)、すぐに帰国はせずにニューヨークへ飛んだ。イーサン・ホークに出演を直談判するためだった。エージェントを間に挟んでの交渉だと、いったい彼がこの映画に、この役に前向きなのかどうなのかもわからない。アメリカから役者を呼ぶことに最初から乗り気ではなかったプロデューサーのミュリエルは、「ほんとうに彼がいいのか? ヨーロッパの役者じゃ駄目なのか? 娘が暮らしているのはなぜイギリスでは駄目なのか?」と繰り返す。経費等を考えたら、プロデューサーとしては妥当な言葉だと思うがスルーした。

「イギリスだと主人公のファビエンヌ(カトリーヌ)が馬鹿にしにくいじゃないですか。それに近すぎて結婚式以来久しぶりに会うという設定に説得力が無くなります」

 そう押しきった手前、この渡米でなんとか前向きな返事をもらって帰りたかった。